中小企業の経営において、M&Aは重要な戦略の一つとして位置づけられています。しかし、そのプロセスや価格の算出方法など、多くの企業主や経営者にとっては未知の領域かもしれません。
この記事では、「中小企業のM&Aとは」何か、その目的や手法、価格の決まり方について詳しく解説していきます。
中小企業のM&A(SMB)
中小企業のM&Aは、企業の成長、拡張、または継承計画において重要な役割を果たしています。
中小企業のM&A(SMB)に関する内容は以下の通りです。
- そもそも中小企業とは?
- 中小企業のM&Aの現在
- 中小企業のM&Aの課題
そもそも中小企業とは?
中小企業とは、一般的には従業員数が300人以下、かつ売上高が数十億円以下の企業のことです。
中小企業の規模は、従業員数や年間売上高に基づいて定義されています。
従業員数に基づく規模は以下の通りです。
- 小規模企業:従業員数が50人未満
- 中規模企業:従業員数が50人以上200人未満
- 大規模企業:従業員数が200人以上
年間売上高に基づく規模に関しては、従業員数だけでなく、年間売上高に基づいて規模を定義する国や地域もあります。この場合、具体的な売上高の基準は国によって異なります。
中小企業におけるM&Aの現在
現在の中小企業のM&A市場は、特に中規模市場のM&A活動が活発であり、大規模な取引や初公開(IPO)の市場が弱まる中でも、中規模市場のM&Aは堅調であると報告されています。
また近年は、中小企業のM&A活動が増加傾向にあります。中小企業では。後継者問題や競争力の強化のため、多くの企業がM&Aを検討しています。
加えて、経済の変動や新たなビジネスモデルの出現により、事業の再編や新規事業展開のためのM&Aが行われていることも特徴的です。
以下の内容では、中小企業におけるM&Aの現在の状況やトレンドを紹介します。
- デジタル技術と中小企業M&A:
特に、クラウドコンピューティング、人工知能、データ分析などの分野でのM&Aが増加 - 成長戦略:
中小企業はM&Aを通じて市場への進出や新規顧客の獲得を目指している - 資金調達:
買収によって規模を拡大し、資本市場での認知度を高め、投資家からの資金調達をしやすくする - 地域密着型M&A:
地域密着型のM&Aは、地域社会への貢献や地域内での協力を強化するために行われている - リスク管理:
中小企業はリソースが限られているため、専門家のアドバイスを受けることが重要
中小企業におけるM&Aの課題
中小企業のM&Aにはいくつかの課題があります。
中小企業のM&Aの課題は、「適切な評価の難しさ」「資金調達の困難さ」および「適切なマッチングパートナーを見つけることの難しさ」などが含まれます。
また、中小企業の所有者や経営者はしばしばM&Aプロセスの知識や経験が不足しているため、適切なアドバイスやサポートが不可欠です。
特に、後継者不足によるM&Aは、双方のビジネスの適合性や文化のマッチングなど、緻密な調整が必要とされます。
M&Aの課題は以下の通りです。
- 財務課題:中小企業は、適切な資金調達や財務管理の難しさに直面することがある
- 文化の違い:文化統合がうまくいかない場合、従業員の生産性に悪影響を及ぼす可能性がある
- 人材の維持と統合:従業員のポジションや役割の変更により、組織内での不安や不満が生じることがある
- 法的および規制の遵守:各国や地域には、M&Aに関連する法的および規制上の要件が多く存在する
- デューデリジェンスと評価:情報の収集と正確な評価が行われない場合、M&A後に大きな課題に直面する可能性が高まる
中小企業の方でM&Aを検討している方は、以上の問題点を必ず押さえておきましょう。
中小企業がM&Aを行う目的
中小企業がM&Aを行う目的は、以下の3つです。
- M&Aを通じて後継者を探すため
- 新規事業や事業の拡大のため
- 資金調達のため
M&Aを通じて後継者を探すため
中小企業におけるM&Aは、後継者不在という問題を解決するために行われます。
特に、日本において、多くの中小企業が後継者不在という問題に直面しています。実際、2025年までに平均引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は約245万人に上り、その約半数の127万人は後継者が未定であると言われています。
そのため、後継者不在の問題を解決する効果的な手段として注目されているのが「M&Aにおける事業承継」です。
実際に中小企業庁は、中小企業の後継者不在問題を解決し、事業承継を実現するための「中小M&Aハンドブック」を策定しています。
このハンドブックでは、中小企業がM&Aを通じて後継者を見つけ、事業を承継させる方法についての詳しく解説されているので気になる方はチェックしてみてください。
M&Aによるメリットは事業の存続、従業員の雇用保護、株式の売却益の獲得などがあります。
しかし、必ずしも希望額で売却できるとは限らず、事業承継が思うように進まないこともあります。政府による支援もあり、後継者が見つからずに企業が存続できなくなると、失業者が増加し、経済の発展が阻害される恐れがあります。
M&Aは、中小企業における後継者不在問題の解決手段として重要な役割を果たしています。これにより、企業の存続や従業員の雇用、さらには地域経済の安定にも貢献することが期待されています。
しかし、M&Aは必ずしも成功する保証はなく、適切な計画と実行性が必要です。特に、中小企業庁が提供する「中小M&Aハンドブック」を参考にしたり、各種専門家からのアドバイスを聞くことがおすすめです。
新規事業や事業の拡大のため
中小企業がM&Aを行う目的の1つは、「新規事業の立ち上げ」や「既存事業の拡大を図ること」です。M&Aは、企業が新しい市場に進出したり、事業領域を拡大したりする効果的な手段となることがあります。
詳しい詳細は以下の通りです。
- 新規市場進出・事業領域の拡大
- 事業の成長と拡大
- 資源と能力の補完
- 効率的な事業運営
- 競争力の向上
新規市場進出・事業領域の拡大
M&Aは、企業が新しい市場に進出するための手段として利用されることがあります。これは、相手企業の持っている市場シェアや顧客基盤、ブランド力などの経営資源を活用することで、企業の成長や拡大を目指すことができるためです。
事業の成長と拡大
M&Aを通じて、異なる強みを持つ2社が統合することで、業界内でのシェアを強化することができます。
資源と能力の補完
M&Aは、異なる企業間で資源と能力を補完し合うことによって、新規事業の創出や事業拡大を実現するための効果的な手段となります。
効率的な事業運営
中小企業は、M&Aを通じて他の企業の資源やノウハウを利用することで、事業の効率化を図ることができます。これは、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大を加速する効果があります。
競争力の向上
M&Aは、中小企業が競争力を向上させるためにも利用されます。これは、新規事業や事業拡大を通じて、市場での立場を強化することができるためです。
目的と手法を理解することで、「中小企業が新規事業や事業拡大のためにM&Aをどのように利用するか」についての理解を深めることができます。
資金調達のため
中小企業がM&Aを行う目的の一つに資金調達があります。
特に、成長資金や事業再編のための資金を確保する目的でM&Aを行うこともあり、資本提携や株式の売却を通じて、必要な資金を調達することができます。
中小企業の場合、資金調達はさまざまな事業拡大や運転資金の確保、新たな投資のために必要とされています。M&Aを通じて資金調達を図ることで、企業は新しい資源や技術を取得し、競争力を向上させることが可能です。
資金調達の方法としては、M&Aでは主に「直接金融」と「間接金融(融資)」の2種類が存在します。
中小企業においては、資金調達の目的でM&Aを行う場合には、「事業譲渡」や「株式譲渡」などのスキームが用いられることがあります。
これらの手法を通じて、企業は必要な資金を調達し、さらに成長することが可能となります。
M&Aの資金調達について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
中小企業のM&Aの手法
中小企業のM&Aの手法は、以下の通りです。
- 株式譲渡:株主が保有する株式を第三者に譲渡する手法(完全譲渡と部分譲渡がある)
- 事業譲渡:企業の一部または全部の事業を別の企業に移管する手法(資産や権利、人員などの移管)
- 会社分割:企業の一部を切り離して新たな法人を設立する手法
- 株式交換:二つの企業が相互に株式を交換することで合併する手法
- 株式移転:ある企業の株式の全てまたは大部分を別の企業が取得することで、完全子会社化する手法
M&Aの詳しい手法については、以下の記事で解説しているので、気になる方はチェックしてみてください。
中小企業のM&Aの流れ
中小企業のM&Aの流れは、以下の通りです。
- ソーシングとマッチング
- 基本合意
- クロージング
ソーシングとマッチング
M&Aの最初のステップは、適切なパートナー企業を見つけることです。各企業の要件や条件をもとに、最適なマッチングを図ります。
ソーシングとマッチングの際に行う内容は以下の通りです。
- M&A目的の明確化・スキームの策定
- M&A対象企業の決定と打診
基本合意
双方の企業が合意に達したら、基本合意書を作成します。これは、M&Aの大枠を定義する重要な文書となります。
基本合意の際に行う内容は以下の通りです。
- トップ会談・条件交渉
- 基本合意契約の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
クロージング
最終的に、契約書の締結や手続きを経て、M&Aが成立します。このステップをクロージングと呼びます。
クロージングの際に行う内容は以下の通りです。
- 最終契約締結・クロージング
- 経営統合(PMI)の実施
もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
中小企業のM&Aの価格はどのように決まる?(算出方法も解説)
結論から言うと、中小企業の売却価格は交渉で決まります。
ちなみに、中小企業の売却価格の算出方法には大きく分けて3つの算出方法があります。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
コストアプローチ
コストアプローチは、企業価値評価の基本的な手法の一つであり、主に企業の資産と負債を基にして企業価値を算出します。この方法は、主に資産重視の企業や不動産などの固定資産が多い企業の評価に適しています。
コストアプローチにおける主な算定方法は以下の2つです。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
簿価純資産法は、企業の財務諸表に記載されている資産と負債の簿価(会計上の価値)を基にして、企業の純資産の価値を算出します。
- 計算方法:企業価値(簿価純資産)=総資産(簿価)-総負債(簿価)
- 例:総資産が50億円、総負債が20億円の場合、企業価値(簿価純資産)=50億円-20億円=30億円
時価純資産法は、企業の資産と負債の時価(市場価格)を基にして、企業の純資産の価値を算出します。
この方法は、資産の現在の市場価値を反映させることができるため、簿価純資産法よりも正確な企業価値を算出することが可能です。
計算方法:企業価値(時価純資産)=総資産(時価)-総負債(時価)
例:総資産が100億円、総負債が40億円の場合、企業価値(時価純資産)=100億円-40億円=60億円
コストアプローチによる算定方法を用いることで、中小企業のM&Aの際に企業価値を評価することが可能です。
しかし、これらの方法は企業の内部的な要素のみを考慮するため、市場の動向や企業の将来性など外部的な要素は反映されません。そのため、他の企業価値評価方法と組み合わせることが一般的です。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業の将来の収益性を基に企業価値を評価する方法で、主に(Discounted Cash Flow法)や収益還元法などが用いられます。
このアプローチは企業の将来的な収益性やキャッシュフローを重視し、それらを現在価値に換算して企業価値を求めます。以下にそれぞれの方法について、具体的な数値と例を交えて説明します。
DCF法 (Discounted Cash Flow法) は企業の将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、それらを割引率を使って現在価値に換算する方法
例:5年間の年間フリーキャッシュフローが以下のように予測され、割引率が5%である場合、
- 1年目: 2億円
- 2年目: 2.2億円
- 3年目: 2.4億円
- 4年目: 2.6億円
- 5年目: 2.8億円
企業価値(DCF法)=2億円/(1+0.05)¹+2.2億円/(1+0.05)²+2.4億円/(1+0.05)³+2.6億円/(1+0.05)⁴+2.8億円/(1+0.05)⁵≈10.58億円
収益還元法は企業の将来の収益を予測し、それを特定の還元率で割って企業価値を算出する方法
企業価値(収益還元法)=予測収益/還元率
例:5年後までの年間の予測収益が10億円で、還元率が10%である場合、企業価値(収益還元法)=10億円/0.10=100億円
以上の2つの方法を用いることで、中小企業のM&Aの価格を算出することができます。
また、それぞれの方法は異なる観点から企業価値を評価するため、実際のM&Aの際には複数の方法を組み合わせて使用することが一般的です。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場データや同業他社の取引例を参考にして、企業の価値を評価する方法です。
このアプローチは、市場で同じような企業がどのように評価されているかを基に企業価値を算定するため、市場の実際の動きを反映した価値を得ることができます。
以下にマーケットアプローチの具体的な算定方法と例を交えて説明します。
業界平均倍率を用いる方法は、同業他社の平均的な株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などを基に企業価値を算定する方法です。
- 計算方法:企業価値(業界平均倍率)=企業の利益×業界平均PER
- 例:企業の利益が2億円、同業他社の平均PERが5倍の場合、企業価値(業界平均倍率)=2億円×5=10億円
配当還元法は企業の配当性向や将来の配当成長率を基に企業価値を算定する方法です。
計算方法:企業価値(配当還元法)=D₁/r-g(D₁は1年後の予想配当、rは投資家の要求収益率、gは配当の成長率を示す)
例:1年後の予想配当が1億円、投資家の要求収益率が10%、配当の成長率が3%の場合、企業価値(配当還元法)=1億円/0.10−0.03≈14.29億円
マーケットアプローチの方法を用いることで、市場の動向や同業他社の取引価格を参考にしながら、中小企業のM&Aの価格を算定することができます。
それぞれの方法には特長と限界があり、実際のM&Aの際には、複数の方法を組み合わせて企業価値を評価することが一般的です。