異業種買収、個人M&Aで注意すべき8つの企業特性
M&Aを実施するためには、企業の事業性を評価することが大切である。なぜなら、企業の特性を踏まえなければ、個々の評価を正確に行うことができないばかりか、買収後の戦略を誤ってしまう可能性があるからである。まずは8つの企業特性を以下に示す。
1.「BtoB」と「BtoC」の特徴の違い
2.「労働集約型」と「資本集約型」の特徴の違い
3.「フロービジネス」と「ストックビジネス」の特徴の違い
4.「嗜好品」と「生活必需品」の特徴の違い
5.「見込み生産」と「受注生産」の特徴の違い
6.「現金商売」と「売掛金商売」の運転資金の違い
7.「固定費型」と「変動費型」の特徴の違い
8.借入金の大小によるCFの違い
特性といっても、その種類は様々で、企業特性・業界特性・地域特性がある。「企業特性」は戦略や戦術を考える際に考慮すべきその企業特有の特性を指す。「業界特性」は製造業、飲食店など、各々の業種(業界)に存在する特有の要因を指す。「地域特性」はその地域の持つ独自性や異質性のことで、その時のもつ特徴や特産物、産業、気候などの他、その地域に住む人たちの特徴も含まれる。
「地域特性」は各々の地域によって異なるため、上記は「企業特性」「業界特性」を示すものである。以下に各々の特性について詳しく説明する。
企業特性①「BtoB」と「BtoC」の特徴の違い
「BtoB(Business to Business)」とは法人向け、「BtoC(Business to Customer)」とは一般消費者向けの製品・サービスを指す。そしてこれらは様々な違いがある。
まずは顧客の判断基準は、BtoBでは、品質・使用性などの機能面を重視し、自社の業務に必要か、業務の問題を解決するかなど、合理的に判断する。
一方でBtoCでは、比較的デザインやブランド力などの情緒面を重視し、個人の満足度や個人の悩みを解決するかという判断の他、「好き」「かわいい」といった感情的に判断するケースも少なくない。
次に、意思決定プロセスも異なる。BtoBでは、窓口担当者以外にその上司や最終決裁者も意思決定に影響を及ぼすため、複数人が意思決定に関与する。しかしBtoCでは、子供用商品や塾などのサービスは親が関与するが、概ね本人がその場で決定するため、基本は本人単独で決定する。
続いてBtoBの場合、1度購入すればリピートされるケースが多いのに対し、BtoCは単発の場合が多いのが特徴である。そのためBtoBは、一度決まれば大量に継続売上が見込める反面、トップの方針転換等によっていきなり売上がゼロになるというリスクも抱えている。反対にBtoCは、リピートするためのしくみやブランディングが重要になる。
このようにBtoBとBtoCは様々な面で異なるため、まったく別物として扱われるが、BtoBの製品がBtoCとして売り出されて成功を収めることも少なくない。
例えば、高性能の部品を法人向けにおさめていたメーカーが、その部品を使って一般消費者向けに高性能な製品を売り出してヒットするなどがある。つまり、法人向けの製品の中に、消費者のニーズに対応できる機能が隠れている場合があるのである。
企業特性②「労働集約型」と「資本集約型」の特徴の違い
「労働集約型」とは、人間の労働力への依存度が高く、お金や機械・設備よりも、人間の手による仕事量が多い産業のことである。例えば、農業や漁業、介護・飲食店・マッサージなどのサービス業、タクシー業界、そして機械化が進んでいない製造業などがある。
事業活動の主要な部分を労働力に頼っていて、売上高に対する人件費の比率が高くなる産業であり、売上を増やすためにはその分の労働者が必要になるため、売上が増加しても利益を増やすことが難しくなる。
中小企業の労働集約型の製造業の特徴として、労働生産性が低いことが上げられる。資本集約型でボトルネックになるのは設備だが、労働集約型のボトルネックは作業員である。
そして労働集約型産業の生産性を上げるためには、OJTなどの教育で社員のスキルアップを図り、作業の品質やスピードを向上させること、そしてマルチタスク化を進めて作業者の手待ちを回避することである。
一方で「資本集約型」とは、労働力より設備機械などの固定資本への依存度が高い産業のことで、例えば、機械化が進んだ製造業、電気やガス、通信、エネルギー、鉄道や、大型商業施設なども含まれる。事業活動の主要な部分を固定資産に頼っているため、売上高に対する固定資産の比率が高くなる。
そして売上を増やすためには設備投資が必要になるが、売上増加により固定費のレバレッジ効果で利益を大きく増やすことができ、いかに資本効率を高めるかがポイントになる。
具体的には、稼働時間および稼働率の向上、生産能力の向上などである。そのため、設備投資にかける資金力のある大企業のモデルと言える。もし大量生産の製品を製造するビジネスを中小企業が実施しても、最新設備で勝負する大企業に対してはコスト、品質、生産量のどれをとっても敵わない。
企業特性③「フロービジネス」と「ストックビジネス」の特徴の違い
「フロー(flow)」とは「流れ」という意味であり、「フロービジネス」は、その都度の取引で収入を上げているスタイルのビジネスのことである。
例えば、飲食店や小売店、製造業などで、中小企業の多くはフロービジネスである。フロービジネスの特徴は、顧客にとって購入のハードルが低いため比較的集客しやすく、開業してから早い段階で売上を得られるので、創業時のキャッシュフロー面でメリットがある。
例えば小売店では、新規開店でオープンセールを実施することで集客し、運転資金を確保しながら経営を続けることができる。一方で、都度契約を繰り返して収益を得るスタイルのため、収益が安定しにくく、競争も激しくなる。
また一般消費者向けでは、市場の流行り廃りや顧客の飽きに大きく影響するため、常に顧客のニーズ・ウォンツに敏感に対応することを心掛けておかなければ顧客の流出リスクが高まってしまうという特徴がある。
一方で「ストック(stock)」とは「蓄える」という意味で、「ストックビジネス」は、顧客と契約を結んだり、会員を確保したりすることで、継続的な利益を得るスタイルのビジネスのことである。
例えば、通信事業、レンタル・リース、会費制のスポーツジムやフィットネスクラブ、そして生活必需品などの定期購入などである。
ストックビジネスの特徴は、契約・会員を獲得するまでに時間がかかるため、それまでの運転資金が必要になることである。ただし一定数の契約・会員を獲得できれば継続的にまとまった収益が得られるので、収益が安定しやすくなる。
その他、喫茶店のコーヒーやエステサロンなどのチケット制は、チケットを使い切ると再販売する必要があるが、最初にまとまった収益を確保できるため、フロービジネスとストックビジネスの中間的な位置づけとスタイルと言える。
企業特性④「嗜好品」と「生活必需品」の特徴の違い
「嗜好品」とは、実生活に直接必要ない、個人的趣味などで購入するものであり、簡単に言うと、なくても生活していけるものを指す。
例えば、高価な衣服や時計、装飾品、玩具、たばこなどである。また食品で言うと、栄養を取るための日常の食品ではなく、好きで食べたり飲んだりするもので、高価な食品や菓子類、お酒が嗜好品に含まれる。
嗜好品の特徴は、付加価値をつけることで差別化しやすく、使い勝手の工夫やデザインを洗練させるなどで、価値が一気に高まるケースがあることである。
そのため、比較的容易にブランド力を向上させることができ、価格コントロールもしやすくなるため、低価格競争に巻き込まれにくくなる。
また、一般消費者向け商品がメインになるため、顧客のニーズが多様化している現在、「多品種少量生産」で対応できるため、中小企業にとって取り組みやすい商品と言える。
「生活必需品」とは、生活していく上で欠かすことのできない商品である。例えば、食品や衣類、家庭用日用品や燃料などの他、最低限の家電製品なども含まれる。
生活必需品の特徴は、不特定多数の一般消費者が日常的に使うものであり、主に「少品種大量生産」方式で生産されるため、低価格競争に陥るケースが多くなる。
そのため、大量生産が可能な、設備の充実した大企業が有利な商品であると言える。ただし、生活必需品のカテゴリーの中で差別化した商品を打ち出すことは可能である。
独創的な商品になると生活必需品と言わなくなるかもしれないが、中小企業が生活必需品を扱う場合、大企業と低価格競争にならないよう、ターゲットを絞り、そのターゲット特有のニーズを捉えた、差別化された商品を展開することが望ましい。
企業特性⑤「見込み生産」と「受注生産」の特徴の違い
「見込み生産」とは、需要予測や販売計画に基づいて生産計画を立て、それを基準に生産指示をかけていく生産形態である。見込み生産で生産される製品は主に量産品になる。
大量に生産される量産品の特徴は、競合他社が多く市場価格が概ね決まっているため、価格のコントロールがしにくいことである。そのため見込み生産のポイントは生産性向上であり、設備の稼働率を上げて限界利益(売上高から変動費を控除したもの)への貢献度を増やすことが重要となる。
設備は稼働させなければ売上を生まず、売上ゼロでも固定費はかかるため、最低でも限界利益を上回る価格で販売し、稼働率を向上させることが重要になる。これはホテルや旅館でも同様で、なるべく空室を埋めることが利益向上につながる訳という訳である。
「受注生産」とは、顧客の要求する仕様や数量に合わせて個別に生産する生産形態を言い、受注生産で生産される製品は、主にオーダーメイド品やカスタマイズ品、専門品や試作品などがある。
受注生産のポイントは、見積価格の粗利率の基準が明確であること、そして利益率が十分に取れていることである。量産品のように価格競争がないため価格をコントロールしやすく、量が少ないため、量産品より高利益率での受注を目指すべきである。
そしてしっかりと原価管理を行い、材料費・労務費・外注費・経費を加算した原価を算出し、その上で基準を上回る利益が出ているかを把握することが重要となる。
また、受注生産の場合、想定以上に生産リードタイムがかかって労務費が嵩むなど、見積精度が低くなるケースが多くある。そのため、見積価格と実際価格の差異分析が実施されていること、そして差異が出ている場合、その原因を究明し、次の見積計算に活かしていること、つまりPDCAが回っていることがポイントになる。
企業特性⑥「現金商売」と「売掛金商売」の運転資金の違い
売掛金とは、企業が商品やサービスを取引先に提供し、代金を掛けにした際に発生するもの。売掛金により取引を行っている企業は、製造業、建設業、運輸業、卸売業など、主にBtoBで用いられ、規模の大きい企業の方が売掛金取引の割合が高くなっている。
現金商売は、販売した商品・サービスに対して現金で受け取る商売のことである。現金商売を行っている企業は、小売店や料理店、サービス業など、主にBtoCで用いられている。
「売掛金商売」というのは、自社の商品・サービスを掛で販売する販売取引の言葉だが、反対に仕入取引でも、現金か買掛金のいずれかで仕入れることになる。
ここで問題になるのが運転資金である。売掛金は、相手先の支払い条件で入金される。そして売掛金商売であるBtoBの場合、売掛金のサイト日数と在庫分に対して、買掛金のサイト日数が短くなるケースが多いため、運転資金が必要になってくる。
このタイムラグが企業にとって非常に重たい負担となるのである。つまり「運転資金額=売掛債権+棚卸資産-買掛債務」分の現金が必要になる訳だ。
反対に、現金商売であるBtoCの場合、現金商売ですが買掛金で仕入れるため、運転資金は必要なくなるケースが多くなる。
もう1つの論点として、売上が急激に増加した場合がある。BtoCのように入金の方が出金より早い場合、売上が増加すると現金も増加する。
しかし反対にBtoBのように入金よりも出金の方が早い場合は、売上が増加すると現金は減少していく。つまり、売上が増加するほど資金繰りが厳しくなるのである。
特に中小企業が大企業向けに販売する場合、大企業の売掛金サイトは90日など長くなることもあるため、運転資金が不足するケースが出てくるのである。
企業特性⑦「固定費型」と「変動費型」の特徴の違い
「固定費型」の企業とは、設備投資を多額に行う資本集約型の企業であり、大量生産を行う製造業の他、ホテルやテーマパークのようなサービス業が該当する。
固定費型企業の特徴は、設備投資が多額に必要になること、そして初期投資もかかるため参入障壁が高まることである。また、固定費が高くなる分、変動費比率は低くなるため、高い固定費を賄える売上、つまり顧客を初期段階で確保できなければ事業は成り立たなくなる。
一方で固定費型企業は、売上増加により固定費のレバレッジ効果で利益を大きく増やすことができる。つまり変動費比率が低いため、損益分岐点売上高以上の売上を獲得すれば、利益を大きく伸ばすことができる。そのため、売上を拡大させて市場シェアを高めていくことが重要になる。
変動費型」の企業とは、固定費が低い代わりに、変動費比率が高い企業のことである。基本的には小売や卸の企業が該当するが、中小企業の場合、製造業も変動費型である場合が多くある。
変動費型企業の特徴は、初期投資があまりかからないので参入障壁が低くなること。また、固定費比率が低いため比較的少ない売上で利益が出せる一方で、変動費比率が高いため、売上高が上がっても利益は大きくは増えない。そのため、値引きをすると赤字に陥る可能性が高くなり、値引きは慎重に行わなければならない。
このように、固定費型と変動費型は、業界によって大きく分かれるが、注意が必要なのは、中小企業の場合、業界ではなく個々の企業によって、固定費型なのか変動費型なのかを見極めなければならないことである。
これは原価の構成比を確認することが有効である。そして変動費は主に材料費と外注費、固定費は労務費と経費であり、これらの構成比を見て、対象企業が固定費型か変動費型かを見極めることができる。
企業特性⑧借入金の大小によるCFの違い
借入金残高の状況によって、企業が獲得するキャッシュに大きな差が発生する。
例えば、A社・B社・C社の各社について、借入金がA社は300万円、B社は500万円、C社は1,000万円とする。借入金とその返済、支払利息以外の条件はA~C社すべて同等で、売上高は3社とも1,000万円、売上高営業利益率は4.0%、借入金の利率は2.0%、返済期間は10年とする。
借入金が300万円あるA社の場合で、営業利益が40、利率が2.0%で借入金が300のため、支払利息は6万円、経常利益は34万円となる。ここから借入金の元金を返済するが、借入金300万円が10年返済だと年間30万円になるため、経常利益から返済額を差し引いて、CFは4万円残る。
一方で、借入金が売上高の半分の500万円であるB社のケースは、営業利益が40万円でA社と同等であるが、支払利息が10万円になるため経常利益はA社より4万円少ない30万円で、売上高経常利益率は3.0%と一定の利益率は確保できる。しかし、借入金返済額が50万円必要となるため、企業に残る現預金であるCFは▲20万円と大きくマイナスになってしまう。
さらに、借入金1,000万円、つまり売上高借入金比率が100%であるC社では、経常利益は20万円、売上高経常利益率は2.0%と利益は出ているが、元金返済額が100万円のため、CFは▲80万円まで膨らんでしまう。C社というのは、再生企業が業績を改善した状態と言える。
再生企業というのは、業績悪化による運転資金のCFのマイナス分を借入で賄い、その借入を繰り返して借入金が膨らんでいって、これ以上借入ができない状態に陥っている企業である。
そして一旦借入が膨らんでしまうと、A社のような正常企業と同じ業績に回復しても、借入の利息支払いと返済の負担が大きいため、上記のとおりCFをプラスにすることは難しくなるのである。これが、再生企業の再生を難しくしている要因の1つである。
これは運転資金を借りる場合でも同様である。運転資金は長期借入金でも、その返済期間は3~5年と設備資金より短いのが通常である。そのため、元金返済額が大きくなり、CFを圧迫し、これを繰り返してしまうことで再生企業に陥るのである。
このように運転資金の借入は、行き過ぎると再生企業を増やしかねないため、運転資金の支援ではなく、業績改善の手法を検討することが大切である。
なお、業種や個々の経営環境にもよるが、売上高借入金比率は50%以上になると約定返済が難しくなる。事業を評価する際は、この基準を頭に入れておくことも大切である。