中小企業が目指すべき経営の7つのポイント

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中小企業の経営のポイント7選

中小企業のコンサルティングを実施していると、当たり前のことが実施されていないことが多い。また、中小企業でも規模が大きくなっていくと、つい大企業の真似事をしてしまい、本来の中小企業の良さが失われていく。

そこで、中小企業が安定して成長を続けていくための経営手法を7つ、以下のとおり整理する。

1.「ビジョン」の明確化

2.経営の「PDCA」のしくみ構築

3.「戦略と戦術」の構築

4.徹底した「生産性向上」の実現

5.徹底した「現場主義」の経営

6.従業員が成長し、自立できる「ワンチーム」作り

7.「ブランド経営」の実践

上記について、1つ1つ詳しく見ていく。

ポイント①:「ビジョン」の明確化

なぜビジョンが中小企業の経営に必須なのか

企業が活動方針を決定するための基本概念には、経営理念・ミッション・ビジョンが一般的である。

経営理念とは、経営者が考える会社の存在意義や価値観のこと。ミッションは、使命のことで、地域やその業界などの社会にどのように貢献するのかを示すもの。そしてビジョンは、会社の目指す将来の姿、目指すべきゴールのことである。

これらの中で最も有効なのが「ビジョン」である。なぜなら、従業員一人ひとりの力を最大に活かすためには従業員全体のベクトルを合わせる必要があり、それには会社が目指すゴール(ビジョン)を共有する必要があるからである。

個性や性格、得意分野などが異なる人材をまとめつつ、個々のやる気を引き出し、個々の得意分野を活かすためには、目指すべきゴールを示すことが重要なのである。

ビジョンには、数値目標という定量面と、将来の目指す姿といった定性面があり、双方を示す必要がある。

なお、目標とする売上高や利益、店舗数などの定量面を示すことはさほど難しいものではないが、定量面だけでは従業員のやる気を引き出すことはできない。

重要なのは、従業員もイメージできる定性面のビジョンである。個々の従業員が、そのゴールを明確に頭に描くことができ、業務の中でそのゴールを目指せるようなビジョンを構築することが重要なのである。

ビジョンに必要な3要素とは

しかしこのようなビジョンを示すのは意外と難しい。

よくあるビジョンの例として、「地域再生に貢献する」や「従業員が幸せになる会社」など、どの会社でも活用できるような内容があるが、これでは従業員は言葉として理解できたとしても、従業員の業務内容とつなげることができないため、従業員には刺さらない。

そのため、多くの中小企業の経営者は有効なビジョンを描くことができず、将来について「今まで通り経営ができていればいい」「もう少し収益が上がれば」というレベルのイメージしか持っていないのが現状である。

このように、ビジョンが重要であるとわかっていても、従業員のモチベーションを引き出し、個性を活かすビジョンを構築することは容易ではない。

最も望ましい組織というのは、「従業員全員が同じゴールを共有して同じ方向を向いていること」、そして「従業員のやる気と自立心を促し、様々な施策のアイデアを従業員自ら考え、打ち出し、実践する組織」である。

つまり、これからの組織は、多様な個性の集まった集団の中で、ベクトルを合わせながら、個々の個性と力量を活かす組織を目指すべきと言える。

こうした組織を作り上げるには、組織活動のベースとなるビジョンが欠かせない。そしてこのような組織を構築するために必要となるビジョンの要素は大きく3点あり、次のとおりである。

① 従業員が、言葉で理解できるだけでなく、具体的に頭にイメージできること

② ビジョンが会社独特の内容であること

③ ビジョンが個々の従業員の業務に直接関連し、業務内容とゴール達成が直接結びつくこと

ブランド・アイデンティティのビジョン化とそのメリット

そしてこうしたビジョンを構築するために有効なのが、「ブランド・アイデンティティ(BI)」をビジョンにすることである。

BIとは、自社や自社の製品・サービスについて、「顧客にどう思われたいか」を明確にしたもので、ブランド力を向上させるための軸になるもの。そしてこのBIをビジョンにすればいい。つまり「BIのビジョン化」する訳である。

このBIのビジョン化は、様々な効果を上げることができる。

1つは、従業員への浸透が容易であること。経営者にとって経営理念やビジョンを社内へ浸透させることは、時間と労力がかかる非常に大変な業務である。

例えば、半年程度で社内に経営理念を浸透させるというコンサルティングも存在している。しかし、いくら時間と労力とコストをかけても、理念やビジョンを組織の隅々まで浸透させることは困難なのが現状である。

これは、そもそも理念やビジョンが浸透しにくいことが原因なのである。

2つめは、全従業員のベクトルが一致しやすいことである。社内へのビジョンの浸透と同様に、全従業員のベクトルを合わせることは、経営者にとって非常に難易度の高い業務と言える。

しかし「顧客にどう思われたいか」というシンプルなビジョンであれば、従業員にとってイメージしやすいだけでなく、ビジョンと各従業員の業務を紐づけがしやすくなる。

そのため、経営者だけでなく、従業員一人ひとりが同じゴールを目指すことが可能となり、ベクトルが合いやすくなるのである。

3つめは、経営者だけでなく従業員1人ひとりが「顧客軸」で物事を考えることができるようになること。社内会議などで議論が対立し、解決策を見出すことができない要因の1つは、各人が自分都合や、各部門の都合で物事を考えることが要因となって起こる。

例えば、料理店などで、顧客の要望に応じて料理を変更したいと考える店長と、自身の考えた料理を変えたくないと考える厨房側との対立がある。

また、案件受注のためにコストを下げたいと考える営業部と、品質問題を起こしたくないため一定のコストが必要であると考える製造部との対立である。

これらは、各々の部門や個人の都合で議論をするため、話し合いが平行性に終わるのである。そのため、各部門や各人が「顧客軸」で考えて議論をすれば、「軸」が統一されてブレることがなくなるため、このような対立が生まれることは少なくなる。

4つめは、物事の判断を常に顧客軸で行えるようになるため、経営者の経営判断や、各従業員の判断力が向上することである。

これからの企業経営は、物事の判断とアクションのスピードと質が問われる時代である。そして経営判断を誤る大きな理由は、顧客よりも企業側の論理で判断すること、つまり「企業軸」で考えていることが要因である。

しかし成功している企業の経営者は例外なく、顧客軸で物事を判断している。そして従業員1人ひとりが顧客軸で物事を考えて行動している。このような組織にする方法として、BIのビジョン化は非常に効果を発揮するのである。

5つめは、従業員のモチベーションや自主性が向上することである。ビジョンをBIにすることで、従業員の業務がビジョンと直結し、「顧客にこう思われるためにはどうすればいいのか」と自身で物事を考え、判断できるようになる。

従業員を指示通りに作業させるだけでは、従業員は業務に飽きてしまい、従業員の士気を向上させることはできない。しかし、自分自身で物事を考え、判断できるようになれば、従業員の仕事への充実感は高まり、自然と士気が上がるようになる。

最後に6つめは、組織の統制や意思決定が容易になり、組織力が向上することである。ベクトルが合っていれば、経営者にとって組織を統制することは難しいことではなくなり、経営の意思決定により組織全体を動かすのも容易になる。

そして一人ひとりの従業員が自ら考えて行動するようになることで、従業員は成長してレベルアップしていくため、それが更なる組織力向上につながる訳である。

このように、BIのビジョン化は、様々な効果を短期間で実現することができる、まさに「経営のマジック」と言えるものである。

BIの事例として、北関東を地盤にした和食レストラン「ばんどう太郎」は「親孝行」を経営理念に掲げている。ビジョンではないが、すべての従業員が同じ方向を目指せるという意味でビジョンの要素を持った経営理念だと言える。

つまりこの経営理念は、従業員全員が「親孝行と同じように顧客に接すればいい」と考えることができるため、個々の顧客がしてほしい接客を、各店舗スタッフが自ら考えて顧客に提供することができる、すばらしいものだと言える。

大手企業から中小企業まで、優良企業と呼ばれる企業は例外なく、顧客軸で経営を行っている。そして優良企業の基本のビジネスモデルは、細かい顧客のニーズに応え続けることであり、常に顧客の心をつかみ、リピート顧客やファンになってもらうこと、そしてそのような顧客を増やしていくことである。

そのためには、従業員全員が顧客の方向を向き、従業員一人ひとりが顧客にとって有意義なことを考えて実行すること。そして「顧客にどう思われたいか」をビジョンにすることで、従業員一人ひとりの力を顧客に直接向かわせることができ、それにより組織力が高まって企業を持続的に成長させることができるのである。

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ポイント②:経営の「PDCA」のしくみ構築

続いての経営のポイントが、経営のPDCAを回すことである。

PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善行動)の頭文字を取ったもので、経営状況を振り返り、問題があれば改善する、ということを繰り返すものである。この言葉はよく知られているが、実務ではなかなか実施できていないのが現状である。

経営のPDCAを回すためには、まずは試算表で当月の実績を前年同月実績や計画と比較して業績状況を把握し、その上で現場の状況を確認して課題を解決していく。

例えば、直近の月の実績が、赤字や前年同月を下回る場合、なぜ業績が赤字なのか、あるいは前年より下回ったのかの原因を究明する。

数値上の実績の原因は必ず現場にあるので、数値を確認した上で現場での収益悪化の要因を探る訳である。そして収益を悪化させた原因が見つかれば、改善策を構築して改善のアクションを起こす。さらに現場の問題解決だけでなく、顧客の新たな要望に合わせた施策も打ち出して成長施策を実行するのである。

このように中小企業の経営者は、常に業績と現場の状況を把握しながら、タイムリーに問題解決と顧客ニーズへの対応を繰り返すことで、経営を安定化させ、かつ成長させることができるのである。

ここで注意が必要なのは、中小企業の場合、これら一連のタスクはすべて経営会議の中で行うということだ。つまり経営会議では、業績の確認や現場の現状把握だけでなく、業績悪化の原因究明や改善施策、つまり「答え」まで構築して、即座にアクションが取れるようにする必要がある。

ここが大企業との大きな違いになる訳だが、大企業の場合は経営会議で戦術まで構築しない。なぜなら、経営者が戦略を構築し、具体的戦術は各部門で構築する、というすみ分けができているから。

具体的には、大企業では、各部門長が戦略を構築し、各部門内で具体的な戦術を構築して行動する。そのため経営会議では、経営者は予算(計画値)が達成しているかどうかを確認することが中心になる。

そして予算未達の場合、各部門長からその理由の説明を受け、予算達成に向けて叱咤激励するのみである。

しかし中小企業では、管理者を含めた部門スタッフだけでは、具体的施策を構築することも、改善施策を実行に移すこともできない。なぜなら、現場スタッフは目の前の作業に追われており、戦術の構築という思考業務にも慣れていないからである。

また、実際の中小企業は試算表を発行しないケースが多いため、毎月の業績を確認することができていない。業績を把握せず、現場も振り返らないため、問題が起きても根本的な改善策を打ち出すことができずに問題が積み重なっていく。その結果、連続赤字や債務超過に陥ってしまうのである。

市場環境の変化が激しく、顧客のニーズや競合他社の状況の変化が目まぐるしい昨今では、タイムリーに業績と現状を把握し、速やかに市場環境に合わせた施策を打ち出して現場の課題解決を図ることは、生き残るためには必須の業務なのである。

ポイント③:「戦略と戦術」の構築

中小企業の経営のポイント3つめは、経営者自ら、戦略に加えて具体的な施策(戦術)まで構築することである。企業活動を行うには、戦略と戦術が必要である。

戦略とは、企業活動の方向性を示すのもで、例えば「新規開拓営業を強化する」や「既存顧客のリピート率を高める」といったものである。

一方で戦術とは、戦略の具体的手段であり、例えば、「新規開拓営業を強化する」という戦略に対し、「東京23区の食品会社に絞って、週5社訪問する」といった、アクションレベルの具体的内容になる。

そしてビジネス書や専門家の間では「戦術より戦略が大事」「戦略は経営者が構築し、戦術は部下が構築する」と言われており、これらがセオリーとなっている。

しかしこれは経営資源が豊富で、経営・組織体制が確立している大企業の論理であり、中小企業の経営には当てはまらない。

なぜなら、大企業の場合は売上規模が膨大なため外部環境に大きく影響を受けるが、中小企業の場合、外部環境の影響は受けたとしても、規模が小さい分ある程度戦術でカバーできるからである。

そのため中小企業では、業界全体が低迷していても、多面的な販促などの手法を繰り広げることで、十分に売上を向上させることが比較的容易である。つまり、中小企業にとって「戦術」こそが重要なのである。

なお、中小企業の従業員の業務は作業中心のため、考えることが比較的得意ではない。したがって、経営者が戦術構築を部下に投げかけても、良いアイデアは生まれにくいのである。

そのため、市場環境の変化が激しい昨今では、顧客ニーズの変化などに素早く対応することが求められ、その変化に迅速に対応するには、経営者自らが現場の状況を迅速かつ正確に把握し、タイムリーにその変化に適合した戦術を打ち出すことが重要になる。

経営者が戦略だけを構築して戦術を現場に丸投げする手法では、このような迅速な対応はできない。ただし、経営者自ら業務を行う訳ではないため、いくら現場を把握しているといっても限度があり、アクションレベルの詳細まで緻密に戦術を構築するのは困難である。

そこで、部門横断的に新たな施策を検討する場合、経営者が自ら戦術の「たたき台」を構築し、その原案を踏まえて従業員を巻き込んで議論することが有効である。

たたき台があれば、従業員は自分達の具体的アクションのイメージを描くことができるため、現場スタッフからその原案に対する意見が出しやすくなる。

従業員からアイデアが出ないのは、アイデアを出すための糸口がなく、ゼロからでは何も頭に描くことができないからである。しかし、たたき台で行動のイメージが見える化された状態であると、各自が具体的なアクションを描写しやすくなるので、それを切り口に様々なアイデアを出せるようになる。

さらに、たたき台をベースに修正を重ねることで、最終的には従業員自身が決定することになるため、従業員自身の責任感とやる気を醸成することにもつながり、まさに一石二鳥の効果が期待できる。

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ポイント④:徹底した「生産性向上」の実現

続いて中小企業の経営で重要なのは、日本の中小企業全体の課題とも言えるものだが、徹底して生産性を向上させることである。

生産性とは、投入した生産要素に対する付加価値の割合(付加価値÷投入した生産要素)ということ。ここの「投入した生産要素」とは、具体的には設備などの有形固定資産と、従業員を指す。

そして各々の生産性を図る指標としては、資本生産性(付加価値÷有形固定資産)と、労働生産性(付加価値÷従業員数)がある。

なお「付加価値」とは、売上から外部購入費を引いたもので、概ね「営業利益+人件費」と捉えればいい。「生産性が低い」とは、これら資本生産性と労働生産性が低い状態だということである。

日本の中小企業は、業績悪化に加え、需要も縮小しているため、新たな設備投資の必要性もなくなっている。そのため、耐用年数を過ぎた設備をずるずると使い続け、それが生産性の低さの要因の一つにもなっている。

一方で「労働生産性が低い」とは、「従業員一人当たりの生み出す付加価値が低い」ということで、従業員一人ひとりの生産性が低いことを意味する。ざっくり言うと、現場の生産効率が悪く、無駄な業務と無駄な人材が多い、ということである。

そして中小企業にとって特に喫緊の改善課題となっているのが、この労働生産性の低さだ。なぜなら労働力は、自社都合で増やすことも減らすことも比較的自由にコントロールできるからである。

現場で働く労働者は、主に「ブルーカラー(単純労働者)」と「ホワイトカラー(定型業務)」、そしてもう一つの「ホワイトカラー(クリエイティブ業務)」がある。そして労働生産性が停滞している要因となっているのが、ブルーカラーと定型業務のホワイトカラーである。

ブルーカラーの低生産性は、労働集約型の業務で多く見られる。例えば、シングルタスクの従業員の存在による手待ちの発生、無駄な業務や業務手順の非効率性、システム化やIT化の遅れ、などが挙げられる。

これらの改善策としては、まずは業務の手順を見直し、無駄な業務は排除することである。中小企業の業務の中には、不要な業務を慣習的に継続していたり、単独で実施可能な業務を複数人で実施したりするケースがある。そのため、最も効率的な手順を、最適人数で実施できるように見直すのである。

その他、OJTやマニュアル化による従業員のスキルアップを図り、従業員のマルチタスク化を実現して従業員の手待ちを回避することも重要である。中小企業の場合、ボトルネックになるのは設備ではなく労働者であることが多いため、社員教育によるスキルアップを体系化して速やかにスキルアップを図ることは極めて重要である。

また、定型業務のホワイトカラーでは、標準化が進んでおらず、属人化している業務も存在しているため、ルーチン業務でも非効率な状況となっている。そのため、業務を見直して標準化を図り、さらに可能なレベルでシステム化・IT化を行って効率性を高めることも重要である。

中小企業の場合、パソコンが苦手な従業員もいるので、紙ベースでデータを記入するなど、極めて非効率な状況が散見される。そのため、設備投資が困難な場合でも、最低限データ化を進めて作業と管理を省力化し、数値は加工して経営に活かせるようにする必要がある。

なお現在はクラウドコンピューティングで、安価にシステムを導入することが可能である。

ちなみに、この定型業務のホワイトカラーの労働生産性の低迷は、中小企業だけでなく大企業にも多く見られる。

大企業では、プラミッド型の大所帯の組織体制が構築されている。そして事業部内に人材が溢れ、組織体制が多部門化、多階層化しているため、様々な業務で非効率な業務が生まれている。

そのため、部下の成果物のチェックや、上層部からの指示を下層部に伝えるメッセンジャー業務が主要業務となっている管理者も多くいる。

また、上層部になるほど現場の仕事から離れてしまうので、現場の状況を把握できていない者も多く在籍している。そのため、現場の従業員が、決定権を持つ上層部を説得させるために、その材料作りの業務や実際の説得に、膨大な時間と労力を費やしていることも往々にして起きている。

このような状況は、大企業だけでなく、ある程度規模の大きい中小企業でもよく見られる光景である。中小企業といっても規模が拡大していくと大企業を模倣し、従来のピラミッド型の組織体制を構築していく。そして本来の小規模組織の強みである「スピード」と「小回りの良さ」が失われていくのである。

そのため、業務や手順の見直しだけでなく、組織体制をシンプルに見直し、役割も明確にして、業務スピードを意識しながら「価値」のある業務を最適人数で運営するしくみ作りが大切である。特に定型業務は今後AIに置き換わる可能性があるので、これからは業務全体を大きく見直す時期であると言える。

ポイント⑤:徹底した「現場主義」の経営

続く中小企業経営のポイントは、社長が現場主義に徹することである。常に、市場動向や顧客の状況といった現場の現状を把握し、現場に合わせた意思決定を行っていくことが求められる。

中小企業の経営は、机上の知識が豊富な者ほど失敗しやすい側面がある。なぜなら、ビジネス書などの知識を豊富に持つと、知識やテクニックに偏重したり、理論で人を動かそうとしたりする傾向があるため、従業員や顧客などの「現場」がどのような状況なのかという「想像力」が欠如してしまい、現場を無視した意思決定を行ってしまうからである。

現場の状況を捉えずに机上の知識やテクニックに走ってしまうと、いくら論理展開が正しくても、導き出した施策は、現場を考慮していない、自身の持っている極めて限定的な知識や経験を当てはめただけのものなので、現場に適合した精度の高い施策を打ち出すことができないのは当然の理屈である。

また、従業員との信頼関係を構築することも、中小企業の経営には非常に重要である。

経営者と従業員の信頼関係が構築できていない中で経営者があれこれ指示を出したところで、従業員は動きません。人間は感情の動物なので、理屈では人は動かないばかりか、反感を持たれる可能性もある。

そのため、思考は合理的・論理的に行う一方で、相手との対応は感情面に訴えながら接し、その上で合理的な根拠を示すことが大切である。

社長と従業員の信頼関係が構築できていれば、従業員は社長の指示に無理なく応えてくれるし、多少の無理も聞き入れてくれる。また、従業員も社長に話しやすい状況になるため、社長も現場で発生した様々な出来事を把握しやすくなる。そして何といっても、互いが気持ちよく仕事ができる関係になる。

なお、社員との信頼関係を構築する方法は、従業員一人ひとりとしっかりコミュニケーションを取ることである。

具体的には、従業員と一対一の会話ができる環境を作る。そこで各従業員の話に耳を傾けて、会社の内情を把握していく。そしてその会話の中では、相手に共感し、その上で、自分がどのような会社を作りたいか(ビジョン)、そしてどのように会社を経営していくか(戦略や方針)について、熱意をもって伝えることである。

この従業員との一対一での腰を据えての対話は、年に1、2回の定期的に行うことが有効である。なぜなら従業員は社長からの承認欲求を欲しているため、その欲求を満たすことで信頼関係を維持できるからである。

さらに「目標管理」を導入し、従業員の目標設定や、業務への取組みに関するフィードバックにも活用していくことが望ましい。それ以外にも、ちょっとした声掛けなどの日々のコミュニケーションも大切である。

具体的には相手を名前で呼び、笑顔で激励の言葉を伝えるのである。「名前で呼ぶ」という行為は、単純であるが、信頼関係構築に絶大な効果がある。なぜなら、名前で呼ばれた相手は「自分のことをしっかり見てくれている」という承認欲求が満たされるからである。

また、笑顔で対応することで、重要員は「自分に好意を持って接してくれている」という認識を持つことができ、より関係性を深める効果がある。

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ポイント⑥:従業員が成長し、自立できる「ワンチーム」作り

続いての経営のポイントは、社内で協調性(チームワーク)を高める環境を構築し、「ワンチーム」作りを進めることである。

中小企業は前述のとおり、経営体制や組織体制が曖昧で、統制が不十分な場合が多くある。そういう組織体では、人間本来の性質が出てしまう。

具体的には、人間はそもそも「楽して沢山お金を稼ぎたい」と考えるため、組織体が曖昧で統制が不十分な中小企業では、従業員は組織の管理に縛られないため、自分勝手に自身の仕事のテリトリーを決めてしまうなど、なるべく自身に負荷がかからないような言動を繰り返してしまう。

こうして従業員の業務が固定化されていくので、新たな業務を行うのに消極的になってしまう。

また、給与は安く、大企業の半分から3分の1程度しかもらっていないため、仕事が増えることに対して不満を持ちやすくなる。

ベテラン従業員になると、自身の業務の縄張り意識が高まり、新たな従業員がその業務に加入しても、業務のノウハウを教えないといった状況が生まれることがある。

例えば、業務でわからない事があった時、同じ部門の人に質問をしても「自分で調べなさい」とそっけなく答える人がいる。

確かにネットで調べてすぐに解答が見つかりそうな内容であれば、自分で調べるべきである。しかし、調べるのに時間がかかりそうな内容や、そもそも業務特有のノウハウであれば、ネットで調べても明確な回答が得られない。

つまり「調べて簡単にわかること」と「業務の中で習得するノウハウ」、そして「考えて導きだすこと」という業務の特性のすみ分けができておらず、質問に対して機械的に「調べなさい」と指示してしまうのである。

これは本来の教育や指導ではない。そうすると、周囲から教われば1分程度で終わる内容も、調べるのに数十分からそれ以上もかかってしまい、その間は業務が止まってしまう。

そしてこのような状況が積み重なると、膨大な時間を無駄に浪費することになって生産性が大きく低下してしまう。またノウハウを教え合うこともないので個人の成長が進まず、それによる業務の品質低下も招いてしまうのである。

その他、人間は「変化を嫌う」生き物である。これは脳科学的にも言われていることであり、人間の脳自体が楽をしようとする構造になっていて、慣れるには一定の期間かかる。

そのため、人間は誰しも仕事が変更になったり新たな業務を追加されたりすることに消極的になるのである。このように、未統制の組織体制では、人間のエゴが前面に出てしまい、組織が属人的に硬直して組織力が低下してしまうのである。

これらを改善するために有効な手法の一つとして、前述した「BIのビジョン化」がある。しかしこれだけでは、会社全体では有効ですが、個々の従業員の業務レベルまでは行き届かない。

そこで、個々の従業員の意識を変えることが必要になるのであるが、そのために行うことが「ワンチーム」である。

経営者にとって重要なことは、従業員全員が、楽しみながら気持ち良く仕事ができる、そして従業員が常に成長し、自立できる環境を構築することである。

そのために必要なことが、経営者も含め、従業員同士が差別や偏見なく、全員が各々で協調性を発揮し、チームワークを高めることである。

そしてその具体的な方法が、従業員全員がワンチームの意識を持ち、自身のノウハウを共有する関係を築くことである。つまり従業員一人ひとりが、自身の持つノウハウを教え合う風土を作り上げるのである。

仕事を通じて「成長する」ということは、業務の中でより多くのノウハウを知ること、そしてそれらのノウハウを習得して自身のスキルとして昇華させることと言える。

しかしながら、仕事をしながら効率化を図ったり、スピードを高めたり、質を高めたりするノウハウを生み出すことを、得意とする人と不得意な人がいる。

また、そもそも勤続年数の長いベテラン従業員の方が、勤続年数の短い従業員よりも多くのノウハウを持っている。そして中小企業は、部門内でOJTが徹底できておらず、それらのノウハウが共有できていないため、同じ部門内でも従業員によってスキルに大きな差が出てしまうのである。

そこで、すべての従業員が、自身が業務を通じて身に付けた、あるいは周囲からの指導で身に付けたノウハウを共有する意識を持ち、ノウハウの共有をしくみ化した体制を作り上げれば、従業員はより多くのスキルを迅速に習得することができる。その結果、従業員の成長は早まり、個々の従業員および組織全体の生産性が高まる。

さらに、従業員が成長すること、そして周りに教え合うことで、全員の承認欲求が満たされ、従業員の士気も高まり、従業員の自立化を促進させるという訳である。

このような組織作りのためには、しくみと合わせて「社風」として会社全体の雰囲気を作り上げることが有効である。そして前述の「BIのビジョン化」に加えて、「スキルを高め、ノウハウを教え合って成長する組織」を社風として掲げれば、すばらしい企業になるはずである。

また、会議などの日々の業務の中で、各人が必ず「意見」を言うこと、「答え」を出すこと、そしてその答えの「根拠」を示し、、そしてその根拠によって、その意見の良否や質を見極めるようにすることを徹底するのである。

ポイント⑦:「ブランド経営」の実践

最後に、中小企業の経営者のポイントは、「ブランド経営」を実践することである。

「ブランド」とは、顧客が会社や商品・サービスに対して思い浮かべる価値イメージであり、会社名や商品名を見聞きして連想するイメージのことである。

そして「ブランディング」とは、企業の価値を高める活動のことで、例えば価値の高い商品を提供すること、そして価値を発信し続けて浸透させることである。

また、製品だけでなく「業務」の価値を高めるのもブランディングの一つであり、IT化による生産性向上や、従業員のスキル向上によって品質を向上させたり、製品の価値を向上させたりすることも、ブランディングの一つと言える。

そして「ブランド経営」とは、経営者が行う業務について、ブランド力向上を最重要課題として取り組む経営のことを言う。

経営者の仕事は、その会社の状況や経営者の得手不得手によって異なる。実際に中小企業の経営者は、営業やマーケティングに注力したり、現場に籠って仕事をしたりなど、それぞれまったく異なった仕事をしている。

また、外部から来た業界の素人の経営者が企業を大きく成長させた例も多くある。そのため「社長とはこうあるべき」という固定観念を持つ必要はない。ただし、社長が何に注力すべきかを見極め、その優先順位を決めることは重要である。

中小企業の経営者の中には、誰でも実施できるような作業を行っている人もいる。例えば、会計入力や事務関係などである。

従業員数が少なく業績が悪化している企業では、社長自ら事務作業を行わなければならない事情があり、致し方ないケースもある。しかしながら、事務作業は、慣れていれば経営者でなくてもできる作業であり、本来の経営者の仕事ではない。

では中小企業の経営者が優先すべき業務は何かというと、それは企業価値を高める業務、つまり「ブランディング」である。

そしてその価値を高める業務をしくみ化することで、従業員が日々行う業務を行うだけで価値が高まるように、仕事をアップグレードさせるのである。

では「ブランド経営」とは具体的にどのような活動かというと、直接的に売上高や利益を短期的かつ中長期的に向上させ、企業価値を高めるための一連の施策を最優先に取り組む経営のことである。

そしてそのためには、常にブランド力向上および企業価値向上を念頭に入れて、各業務に取り組む、あるいは見直すことが大切である。

例えば、製造業では、市場環境の変化が激しい昨今では、市場のニーズに合わせた商品開発を迅速に行う体制づくりがポイントになる。

また、IT化や機械化などによって生産性を上げることや、新たな商品を開発して市場に投入することも、利益の向上に直接つながる、価値を高める業務と言える。

ただし中小企業の場合は資金不足で新たな投資が難しい。それでも、各工程を見直して品質向上や効率化を図ることも価値向上につながる立派なブランディングである。

小売店では、コンセプトを明確にすること、そのコンセプトに適合した、他店舗では売られていない商品を仕入れることがベースになる。

また、各商品の素材や製造工程のこだわりなどの特徴を紹介するPOPを掲載したり、特設コーナーを設けて週替わりに商品の特徴を紹介したりするなど、各商品の価値を高めることが、小売店全体の価値を高める活動になる。

その他、店舗だけでなくネット通販に展開して商圏を広げる取組みも、ブランド経営の一つといえる。

さらに、従業員のスキルを高め、モチベーションを向上させることも、各人の実務力向上、組織力向上、そして価値向上に直接つながる施策と言えるであろう。

このようにブランド経営とは、自社の価値を高めるための多種多様な活動のことであり、中小企業の社長は、このブランド経営を優先的に実施することで、企業価値を高めることができ、企業の成長や業績の安定化を図ることができるのである。

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