これから経営者や事業責任者になる方で「そもそもM&A(エムアンドエー)とは何か?」と疑問に思っている方が少なからずいるのではないでしょうか?
近年、新たな市場への参入や競争力強化の一環として、多くの企業がM&Aを活用しています。さらに、最近のM&Aの動向は常に変化しており、企業の成長戦略における役割も多様化しています。
こうした背景を踏まえ、この記事では「M&Aの意味」「種類」「手順」やについて分かりやすく解説していきます。
それぞれの企業がどのようにM&Aを選択し、どのように活用しているのかを理解することで、今後のビジネスに対する洞察が必ず深まるので、ぜひ今回の内容をチェックしてみてください。
M&Aとは何か?(意味を簡単に解説)
M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、「企業の合併・買収」のことです。
もう少し詳しく説明すると、M&Aは「企業または事業の全部・一部の移転を伴う取引」を指し、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。
M&Aと聞くと、以前は大手の外資系企業が中小企業やベンチャー企業を乗っ取るイメージもありました。しかし、近年では「企業の成長戦略の手段」としてのM&Aを活用する場面が増えてきています。
M&Aってどうやって行われるの?
企業のM&Aは、単純に「株式」や「事業」を売買するプロセスだと考える人もいますが、実際にはもっと複雑なものです。
M&Aは、「企業の業種」「規模」「目的」に応じて、最適な方法が異なります。これらの異なる戦略や手法を「スキーム」と呼びます。そのため、M&Aの実行には、数多くのスキームの中から、最適なものが選択されます。
M&Aには、主に二つの形態があり、それが「合併」と「買収」です。
- 合併:二つ以上の企業が一つになること
- 買収:ある会社が他の会社の全株式を購入し、その経営権を取得すること
「合併」と「買収」の具体的な手法は、企業の状況に合わせて細かく調整されます。そのため、M&Aは単に企業を売買するだけではなく、より複雑な戦略とプロセスを必要する活動でもあります。
M&Aの目的
M&Aの目的には、買い手目線と売り手目線との2つに分けることができます。
買い手の目的
譲受企業(買い手)にとってM&Aの利点は、「新規事業への参入」「既存事業の強化」「スケールメリットの獲得」などがあります。
M&Aを通じて、譲受企業はオープンイノベーション(外部のアイデアや技術を積極的に取り入れること)を促進し、新規事業への参入を低リスクで実現することができます。
また、譲受企業の既存事業を強化することで、業績を向上させることができます。さらに、買い手企業はスケールメリットを獲得することでコスト削減を実現し、競合他社との差別化を図ることができます。
①新規事業への参入
譲受企業が事業分野の拡大や多角化を図る場合、M&Aは新規事業への参入の方法として有効です。譲受企業は、買い手企業が持つ技術力やノウハウを取り込むことで、新規事業の成功につなげることができます。
②既存事業の強化
譲受企業がM&Aを行う目的の一つに、既存事業の強化があります。譲受企業は買い手企業との相乗効果により、既存事業をより強化することができます。
③スケールメリットの獲得
譲受企業がM&Aを行う目的の一つに、スケールメリットの獲得があります。譲受企業は買い手企業との合併により、生産効率やコスト削減を実現することができます。
スケールメリットとは、企業が大きくなることでコストが効率的になり、単位あたりのコストが下がる現象のことです。
売り手の目的
買い手にとってM&Aの利点は、新規事業への参入や既存事業の強化、スケールメリットの獲得などがあります。一方、譲渡企業(売り手)がM&Aを行う目的には、「事業承継などの後継者問題の解決」「従業員やノウハウの承継」「事業の整理」などが挙げられます。
①事業承継などの後継者問題の解決
後継者不在や後継者の経営能力不足といった問題は、中小企業を中心に深刻な問題となっています。
このような場合、M&Aを活用することで後継者問題を解決することができます。具体的には、他の企業に経営を任せることで、企業の存続や成長を図ることができます。
②従業員やノウハウの承継
譲渡企業の従業員やノウハウは、その企業の価値の一部とも言えます。
M&Aを通じてこれらの人材や知識を引き継ぐことで、新しい視点や技術を取り入れることができます。これにより、組織の活性化や競争力の強化につながる可能性があります。
③事業の整理
M&Aを利用すると、企業全体の事業ポートフォリオを見直す絶好の機会となります。
企業が多角化しすぎて経営資源が散漫になっている場合や、一部の事業が業績を下げている場合などに、M&Aを通じてその事業を整理し、経営資源をより効率的に活用することが可能になります。
M&Aは企業の売買だけでなく、戦略的な決断の一つであり、そのプロセスは複雑です。しかし、適切なスキームを選び、計画的に進めることで、企業はさまざまな問題の解決や新たな価値の創出につながる可能性があります。
M&Aの種類(各手法について解説)
M&Aは、企業が成長し、業界内での優位性を保つための重要な戦略の一つです。それぞれの企業が目指す目標や自社の状況により、活用されるM&Aには様々な手法があります。
M&Aは、大きく分けて「買収」「合併」「提携」の3つのカテゴリーに分類することができます。
それぞれの種類には特徴と目的があり、さらには細かな形態にも分けられます。
この章では、それぞれのM&Aの種類と特性を深堀りし、それぞれが企業の成長と成功にどのように寄与するのかについて解説します。
①買収
買収とは、「一つの企業が他の企業の一部または全体を所有することで、その経営権を取得するM&Aのこと」を指します。
これは、企業が他社の技術や市場シェアを手に入れるために行われることが多いです。
具体的には、「株式取得・資本参加」によって会社そのものを手に入れる方法と、「事業譲渡・資産買収」によって特定の事業や資産を手に入れる方法の2つがあります。
株式取得・資本参加
「株式取得・資本参加」は、他社の株式を買い、経営権を獲得したり、子会社化を進めたり、資本増強を図ったりする手法です。
株式取得・資本参加に含まれるM&Aの手法には、以下の4種類があります。
- 株式譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 第三者割当増資
「株式譲渡」は、売り手企業の株式を買収し、経営権を得る方法です。
現金と引き換えに株式を取得し、企業の所有者(経営者)が変わるだけで、その他の要素(権利や義務の関係等)には影響を及ぼさないのが特徴です。
「株式交換」は、一企業が他社の全ての発行済み株式を取得し、その対価として自社の株式を発行して交付する方法です。
株式交換は、他社を完全子会社化するための手法としてよく利用されます。
「株式移転」は、新たに設立された会社が複数の企業から全ての発行済み株式を取得し、その対価として自社の新規発行株式を提供する方式です。
株式移転により、新たに設立された会社が親会社となります。
「第三者割当増資」は、新規発行株式を特定の第三者に割り当てる方法です。
第三者割当増資は、第三者との関係強化、業務提携の実現、資金調達などを目的として行われます。
事業譲渡・資産買収
事業譲渡・資産買収は、経営権ではなく、事業や資産の一部または全部を売買する形式のM&Aです。
事業譲渡・資産買収に含まれるM&Aの手法には、以下の3種類があります。
- 事業譲渡
- 吸収分割
- 新設分割
「事業譲渡」は、売り手企業が持つ事業の一部または全てを買収し、対価として現金を支払う方式です。
資産や負債、各種契約などを一つ一つ指定して買収する点が特徴です。
「吸収分割」は、ある企業から事業に関する権利義務の一部または全てを引き継ぎ、その対価として株式や現金を提供する方式です。
各権利や義務について、個々の移転手続きを経ないで引き継ぐ点が大きな特徴となります。
「新設分割」は、新たに設立した会社が、既存企業から事業について有する権利義務の一部または全てを引き継ぐ方式です。
対象事業を引き継ぐ企業が異なるだけで、基本的には吸収分割と同じスキームとなります。
②合併
合併は、「2つ以上の会社が一つになる形でM&Aを実行するスキーム」を指します。
合併は、会社の規模を大きくするだけでなく、業務の効率化や競争力の強化を図ることができます。
合併には「吸収合併」と「新設合併」の2つのタイプがあります。吸収合併は一つの企業が他の企業を吸収し、新設合併は全く新しい企業を設立する形をとります。
吸収合併
吸収合併は、複数の会社が統合される際に、一部の会社が他の会社に全ての権利と義務を移すM&Aの形態です。
合併する会社のうち一つ(またはいくつか)が他の会社に全ての資産、負債、権利、義務を引き継ぎ、結果的にその会社が消滅し、引き継いだ会社だけが存続します。
吸収合併は、M&Aの中でも最も一般的に行われる形態でもあります。
新設合併
新設合併とは、全ての合併する企業がいったん法人格を消滅させ、その全ての権利と義務を新しく設立する企業に移す手法を指します。
新設合併の手続きが複雑であるかのように感じる理由は、全ての元の企業が消滅し、新たに一つの企業が誕生するという、特殊なM&Aの形態だからです。
新設合併は全ての元の企業が新設企業に平等に参加し、その経営に等しく影響を与えることを可能にするため、特定の状況下では、新設合併は非常に重要な選択肢となります。
③提携
企業のM&Aの一環として、「提携」は特に重要な役割を果たします。
提携には、「資本提携」と「業務提携」の2種類が存在します。資本提携は企業間で株式を交換し、業務提携は特定の業務やプロジェクトで協力する形を取ります。
資本提携
資本提携は、企業が相手企業に出資することで協力関係を形成するM&Aの形態です。
この際、双方の企業は相手企業の経営権を取得しない範囲で出資を行います。つまり、企業が一定量の株式を取得することでパートナーシップを確立する形となりますが、その企業の経営に直接的な影響を与えるほどの株式を保有しないのが特徴です。
業務提携
一方、業務提携は、複数の企業がお互いに経営の独立性を保ちながら、特定の事業やプロジェクトについて協力する形式を指します。
この場合は、企業は資本を移動させることなく、互いにビジネスの特定部分で連携を図ります。
なお、企業が資本と業務の双方で提携する形式を取ることもあり、これは「資本業務提携」と呼ばれます。これは企業間での深い連携を示す形となり、具体的なビジネスの推進とともに、一定程度の株式の交換も行われます。
M&Aの流れ・手順
企業の成長や戦略的変革を実現するための手段として、M&A(企業の合併・買収)は広く活用されています。
ここでは、M&Aが実行される際の主な流れと手順について解説します。M&Aの進行は大きく分けて3つのステップに区分けされます。
ステップ①:準備フェーズ
準備フェーズでは、まずM&Aの目的や戦略が明確にされます。
企業が自身の成長戦略や各業界の環境に焦点を当て、「何を目的にM&Aを行うのか」「どのような戦略で目的を達成するのか」といった点を定める作業が行われます。
次に、買収候補企業の選定や、買収する企業の価値評価が行われます。
どの企業を買収するか、その企業の価値はどの程度かといった事項が重要となります。また、買収資金の調達方法や、買収後の統合計画もこの段階で策定されます。
準備フェーズの具体的な作業は以下の通りです。
- M&Aの相談・検討
- 自社の経営状況・純資産・負債などの状況把握
- M&A仲介業者の選定
ステップ②:交渉フェーズ
次に、交渉フェーズに進みます。
このフェーズでは、買収する企業との交渉が行われます。交渉内容は、「買収価格」「支払い方法」「買収後の経営方針」などが含まれます。この交渉は、両社が納得する内容になるまで続けられます。
交渉フェーズの具体的な作業は以下の通りです。
- ノンネームシートや企業概要書などの資料の作成
- M&Aスキームの選択
- トップ面談
- M&A基本合意・デューディリジェンス(買収先企業の詳細な調査)
ステップ③:最終契約フェーズ
最後に、最終契約フェーズへと移ります。
このフェーズでは、最終契約が締結されます。最終契約には、「買収条件」「買収後の経営方針」などが明記されます。最終契約が締結されると、M&Aが正式に完了します。
最終契約フェーズの具体的な作業は以下の通りです。
- M&Aの最終契約締結
- クロージング(契約成立)
- M&Aの事後処理
以上、M&Aの主な流れ・手順について解説しました。
M&Aは企業の成長や事業領域の拡大に大きな効果をもたらす一方で、その過程は複雑で時間も費用もかかります。そのため、各ステップを理解し、適切な準備と計画を持って進めることが非常に重要です。
M&Aの手数料(費用)と税金はいくらかかる?
企業経営における大きな転換点ともなるM&Aは、経済的な視点からもその費用と税金がどの程度発生するのか、事前に理解しておくことが重要です。
M&Aの手数料と税金について詳しく見ていきましょう。
M&Aの手数料
多くのM&Aが「M&A仲介会社」を通じて行われる現代では、その手数料がどの程度発生するのか気になるところです。
M&A仲介会社の手数料は、一般的には取引金額の1%から5%程度となっています。しかし、取引金額が数億円以下の小口M&Aの場合は、手数料が高くなる傾向にあります。
手数料は、仲介会社によるサービス内容やM&Aの価値にもよるため、具体的な費用は事前に確認が必要です。
例えば、3億円のM&A取引が成立した場合、具体的な手数料は以下の通りになります。
- 手数料が最低の1%の場合:3億円×1%=3,000,000円(300万円)
- 手数料が最高の5%の場合:3億円×5%=15,000,000円(1500万円)
M&A手数料の構成要素として、一般的には契約締結時の「イニシャルコスト」、交渉進行に伴う「マイルストーンフィー」、そしてM&Aが成立した際の「成功報酬」があります。
これらの詳細も各仲介会社との契約時に確認するべきポイントです。
M&Aは、手数料の高さやリスクの大きさなどが課題となることが多くありますが、M&A仲介会社を活用することで、効率的かつ安全にM&Aを進めることができ、その成果に見合った手数料と捉えることも可能です。
以下の記事では仲介手数料についてもっと詳しく解説しているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
M&Aの税金
M&Aによる事業・会社の譲渡は、売却対価を受け取る行為であるため課税対象となります。その税金は、どのような手法(スキーム)でM&Aが行われるかによって異なります。
税金の問題はM&Aにおいて重要な課題の一つです。特に、株式譲渡の場合、「個人が譲渡する場合」と「法人が譲渡する場合」で税率が異なるため注意が必要です。
また、事業譲渡の場合も税金が発生します。売り手側には法人税がかかり、買い手側には消費税や不動産取得税、登録免許税などがかかります。
M&Aを進める際には、税金の問題も十分に考慮する必要があります。これらの税金は財務計画に大きな影響を及ぼすため、税務専門家との協議も必要となります。
個人が株式を譲渡した場合や、法人が株式を譲渡した場合、売り手側、買い手側それぞれにかかる税金の具体的な税率は以下の通りです。これらは概算であり、詳細な計算には専門家のアドバイスが必要です。
株式譲渡の場合にかかる税金
- 所得税:一律15%
- 復興特別所得税(2037年まで):0.315%
- 住民税:一律5%
これらを合計すると、個人が株式を譲渡した際には、売却対価の約20.315%が税金として支払われることになります。
法人税:約30%(企業規模で税率が異なる)
法人が株式を譲渡した場合の税金は主に法人税となり、企業規模によって税率が異なるため、具体的な計算は税務専門家と共に行う必要があります。
事業譲渡の場合にかかる税金
法人税:約30%(企業規模で税率が異なる)
※買い手の消費税は売り手側が預かって納める
事業を譲渡するとき、売り手側が対象となる税金は主に法人税です。これは企業規模により異なり、詳細な税額を把握するためには税務専門家の助けが必要です。
- 消費税:10%(軽減税率対象の場合は8%)
- 不動産取得税:固定資産税評価額の4%
- 登録免許税:固定資産税評価額の2%
これらはM&Aにおける事業譲渡時の主要な負担税金であり、これらの税金もM&Aの全体的な費用を考える際には無視できません。
M&Aを成功の鍵は、適切な評価と理解をもとにした計画と戦略です。
手数料や税金という経済的な側面もその一部であり、それぞれのケースにおいて最適な選択を行うことが重要です。そのためには、事前に詳細な情報を収集し、専門家の意見を取り入れることが必要です。
M&Aの税金についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
M&Aのメリット
企業統合や買収といったM&Aは、多くの企業がビジネス戦略として用いる手法です。
M&Aの主なメリットには、以下の2つがあります。
買い手にとってのメリット
買い手にとってのメリットとは何かを理解するためには、主に3つの観点から知ることができます。
メリット①:新しい市場への進出
買い手にとって1つ目のメリットは「新しい市場への進出」です。
買い手は、M&Aを通じて自社では困難だった新しい市場へ参入することが可能になります。
例えば、参入障壁であった「特定の規制」「専門知識の不足」「リソースの制約」は、他社の買収によって克服することができます。
そのため、M&Aより既存の顧客やパートナーとの関係を通じて新たなビジネスチャンスを探ることができます。
メリット②:既存事業の強化
買い手にとって2つ目のメリットは「既存事業の強化」です。
買い手はM&Aにより、売り手が確立した「顧客基盤」「技術」「知的財産」「その他のリソース」を活かして、自社の既存事業を強化することもできます。
これにより、「市場シェアの拡大」「収益成長」「利益率の改善」が実現されることがあります。また、新たな経営陣や才能を得ることで、職場の多様性を生み、自社の革新につながります。
メリット③:コスト削減
買い手にとって3つ目のメリットは「コスト削減」です。
M&Aは、規模の拡大によるスケールメリット、効率の向上、冗長な業務の削減により、コスト削減につながることがあります。
例えば「オフィス家賃」「公共料金」「マーケティング費用」などの一般的な経費を共有することで、経営統合によるコスト削減が可能になります。
さらに、製品やサービスの共同開発によるR&Dコストの削減も期待できます。
二つ以上の企業が一緒に新しい製品やサービスを開発するための研究開発(Research & Development)の費用を意味します。
M&Aによって、企業は一社だけで開発を行うよりも少ない費用で新製品やサービスの開発に取り組むことが可能になります。
売り手にとってのメリット
次に、売り手にとってのメリットを考えてみましょう。
主に以下の4つのメリットが挙げられます。
メリット①:後継者問題の解決
売り手にとって1つ目のメリットは「後継者問題の解決」です。
売り手にとっての大きな問題は「適切な後継者や相続人を見つけることができず、事業をなくしてしまうこと」です。
M&Aによる事業承継なら、買い手に事業を売却することで、事業自体を残すことができます。この場合、売り手のブランドや企業文化を存続させることも可能です。
メリット②:インフラストラクチャーの強化
売り手にとって2つ目のメリットは「インフラストラクチャーの強化」です。
買い手は「資金」「技術」「経営ノウハウ」「オペレーションの効率化」など、新しいリソースを売り手の事業にもたらすことができます。
これにより、売り手はインフラストラクチャーを強化し、市場での競争力を向上させることができます。さらに、新しい技術や取引先ネットワークの導入により事業展開の幅を広げることも可能です。
インフラストラクチャーの強化とは、企業の基礎設備やシステム、プロセスを強化・改善し、より効率的で高性能にする行為のことです。
メリット③:個人的な利益
売り手にとって3つ目のメリットは「個人的な利益」です。
M&Aの過程で事業を売却すれば、売り手はこれまでの投資が形を変えて手元に戻ってきます。つまり、自分が長年築き上げた事業を現金化することができ、それは一種の個人的な利益となります。
特に、創業者や大きな投資をしている人々にとっては、事業の売却は新たなチャンスでもあります。一つの事業から手を引くことで、手に入った資金を別のチャンスへの投資に使うこともできます。
メリット④:従業員の雇用の確保
売り手にとって4つ目のメリットは「従業員の雇用の確保」です。
売り手が自身の事業をM&Aを通じて他の企業に引き継ぐことで、事業は継続し、従業員たちの仕事は守られることになります。
M&Aは、売り手側が事業の売却によって利益を得るためだけでなく、従業員たちの生活を維持し、将来に対する不安を軽減する役割も含まれます。
M&Aの結果、従業員の離職率は下がり、職場の士気は向上する可能性があります。さらに、新たな企業で働くことにより、従業員たちは新しいスキルを学ぶチャンスを得たり、キャリアの視野を広げるチャンスもあります。
M&Aのデメリット
企業の成長と発展においてM&Aは重要な役割を果たしますが、潜在的なデメリットもあります。
M&Aのデメリットでは、買い手と売り手の大きく2つに分けて解説します。
買い手にとってのデメリット
デメリット①:収益性の不確実性
買い手にとって1つ目のデメリットは「収益性の不確実性」です。
M&Aにはリスクがあり、買い手が売り手の企業を過剰に評価してしまうと、予想した収益が得られない可能性があります。
例えば、買収する企業の価値を過大評価してしまった場合、期待した収益が得られず「買収後の業績が予測を下回ること」や「収益が落ち込む」ことにつながってしまいます。
さらに、「市場環境の変化」や「競争の厳しさ」が収益性の不確実性を増大させます。
このように、M&Aは不透明な部分があり、活用する際のステップには慎重さが求められます。しかし、適切な評価と戦略によってM&Aの課題を克服することができれば、成功への道を切り開くことが可能です。
デメリット②:人材の流出
買い手にとって2つ目のデメリットは「人材の流出」です。
買収後に重要な人材が流出してしまうと、企業の価値と買収の成功が脅かされる可能性があります。
例えば、新たな経営体制や企業文化に馴染めないことが原因で、貴重な人材を失ってしまう可能性も考えられます。
そのため、買い手側は「新たな経営体制や企業文化の見直し」や「経験豊富な人材を確保するための戦略と対策」を用意することが重要です。
デメリット③:シナジー効果の不足
買い手にとって3つ目のデメリットは「シナジー効果の不足」です。
実際に企業の合併後、期待したシナジー効果が得られない場合、経済的な損失や業績の低下を招く可能性があります。
シナジー効果を最大限に引き出すためには、2つの企業の業務、プロセス、文化を適切に統合することが、成功の鍵となります。
デメリット④:経営統合の課題
買い手にとって4つ目のデメリットは「経営統合の課題」です。
企業統合には繊細な問題が数多く含まれます。その一つが、2つの異なる企業の経営統合です。
経営統合の課題は、企業文化の違いやリーダーシップの不一致などが挙げられます。経営統合には、十分な対策と準備が不可欠で、その過程で企業の協力と理解が必要です。
経営統合の課題を適切な対策と戦略で解決することができれば、M&Aの成功率を高めることが可能になります。
売り手にとってのデメリット
デメリット①:従業員の扱いの悪化
売り手にとって1つ目のデメリットは「従業員の扱いの悪化」です。
事業が売却されると、従業員は解雇される恐れや待遇の悪化といったリスクに直面する可能性があります。
これは、企業の士気を大きく落とし、結果として優秀な人材の流出を招くため、企業の長期的なパフォーマンスに悪い影響を与えることがあります。
そこで、M&Aを進める際は従業員の福利厚生や待遇に十分な配慮を行うことが重要です。
デメリット②:買い手が見つからない可能性
売り手にとって2つ目のデメリットは「買い手が見つからない可能性」です。
事業の売却を考えている場合、その事業の真の価値を見極め、適切な買い手を見つけることは簡単なことではありません。買い手が見つからなければ、「事業の価値が下落する危険性」や「無駄な時間とリソースの消費」にもつながります。
したがって、売り手は、事業の価値を適切に評価し、そして可能な買い手を探すために、事前の市場調査と準備を十分に行うことが重要です。
デメリット③:顧客やサプライヤーの喪失
売り手にとって3つ目のデメリットは「顧客やサプライヤーの喪失」です。
事業が売却されると、既存の顧客やサプライヤーが新たな経営体との関係を引き続き維持することに抵抗を感じる場合も少なくありません。
この場合、売却された事業の収益性や業績に直接影響を与え、結果として売り手の事業価値が下がってしまう可能性があります。
そのため、売り手は売却プロセス中にあらゆるリスクを認識し、可能な限り緩和策を講じた上での売却が必要です。
サプライヤーとは、企業活動に必要な原材料や資材、サービスなどを供給する売り手のことです。
サプライヤーは「製品の部品を製造し供給、納入する業者」を意味します。一般的には、製品は多数のサプライヤーによる部品から、1つのメーカーによって製造、完成されます。
M&Aは、買い手と売り手双方にとって重要な機会を提供する一方で、様々な課題やリスクも伴います。
そのため、取引を進める前に、M&Aのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な準備と戦略を立てることが重要となります。
M&Aのリスク
M&Aは企業の成長戦略の一部であり、新たな市場への参入や業績の向上、競争力強化など、多くの潜在的な利点があります。
しかし、一方でM&Aの取引には多くのリスクも伴います。そのため、企業がM&Aを考える際には、これらのリスクを十分に理解し、適切な対策が重要です。
M&Aにおけるリスクには以下の4つの種類があります。
①財務リスク
財務リスクは、財務面での潜在的な問題のことで、偶発債務、簿外債務、資金繰りリスク、財務コベナンツ条項、対象会社の保有する資産の減損などが含まれます。
M&Aは、大きな費用がかかります。買収する企業の価値を過大評価したり、買収後の統合に失敗すると、財務上の損失が生じる可能性があります。
例えば、企業が高額な買収価格を支払った後、買収した企業の業績が悪化し、投資額を回収できない場合があります。
そのため、M&Aの成功のためには、これらの財務リスクをしっかりと理解し、適切に管理することが重要となります。
②人材リスク
人材リスクは、役員や従業員に関連する潜在的な問題のことで、役員のリスクはキーマンであるにも関わらず、キーパーソンが買収後に経営に参画しないことで業績が悪化するリスクなどが含まれます。
M&Aを通じて企業文化や経営方針が変わると、従業員の離職率が上昇する可能性があります。
例えば、買収された企業の従業員が新しい経営方針に合わせられず、結果として退職するといった事態が発生することもあります。
そのため、これらのリスクを適切に管理することは、M&Aの成功において重要な要素となります。
③法務リスク
法務リスクは、対象企業の法律関連の潜在的な問題のことで、不利な契約条件が存在したり、ビジネス運営に必要な許認可が取得できていない場合などが該当します。
M&Aは様々な法的手続きを伴うため、法律や規制を遵守しないと、罰則や訴訟のリスクが発生します。
例えば、企業が独占禁止法を違反する形でM&Aを進行した場合、制裁金の支払いや訴訟を受ける可能性があります。高度な法務リスクが存在すると、買収そのものが困難になることもあります。
そのため、M&Aを進める前には、法務リスクの調査を慎重に実施することが重要です。
④経営リスク
経営リスクとは、買収後に生じる経営上のリスクを指します。M&Aによって企業の経営方針や戦略が変わると、企業の競争力が低下する可能性があります。
例えば、M&Aを通じて新たな市場に参入したものの、その市場での競争力が不足し、業績が悪化するという事態が考えられます。さらに、組織間の統合がスムーズに進まない、あるいは文化の違いが問題となることもあります。
M&Aを成功させるためには、これらのリスクを十分に評価し、適切な対策を立てることが重要です。