個人M&Aとは、個人が企業を買収することを指します。しかし、企業を買収するためには大きな資金が必要です。
そのため、資金調達は個人のM&Aにおける重要な課題となります。この記事では、個人M&Aの資金調達方法について詳しく解説します。
個人M&Aの資金調達方法とは?
個人がM&Aの資金調達をする場合、「どのような方法があるのか?」気になる方が多いと思います。
個人M&Aの資金調達方法は、「直接金融」と「間接金融」の2種類があります。
- 直接金融
- 間接金融
直接金融は、企業が投資家から直接資金を調達する方法です。
具体的な方法としては、「増資」や「社債発行」があります。
間接金融は、金融機関から借り入れることを指します。
間接金融は、対象企業とお金の出し手の間に第三者(主に銀行)が存在する取引形態です。
第三者である金融機関が間に入ることで、個人の資金が円滑に企業へと融資されることとなります。
M&Aの資金調達とは?
M&Aの資金調達とは、M&Aに必要資金を調達することです。具体的なM&Aスキーム(手法)には、買収と合併以外にも事業譲渡や会社分割、株式譲渡などがあります。
M&Aで資金調達が必要な理由は、M&Aを実施する資金とM&Aの実施後の経営資金が必要になるためです。
具体的には、以下のような費用が発生します
- 買収費用
- 専門家への依頼費用
- 税金
- その他諸経費
M&Aはお金がかかる施策のため、資金調達を行う際は、「どのくらい規模か?」「必要な資金はいくらか?」を事前に調べておく必要があります。
個人でもM&Aは可能?
結論から言うと、個人でもM&A(企業の合併や買収)は可能です。個人がM&Aを行う場合、買収予算には限度があるため、買収額は小さくなる傾向にあります。
個人がM&Aを行うメリットとしては、すでに成立しているビジネスや組織をそのまま引き継ぐことができる点です。個人で起業や独立を考えている人々にとって、副業・起業・独立などの可能性を大きく広げる有効な手段となります。
しかし、M&Aには税務や法律、ファイナンスやM&A実務に関する専門知識が必要です。そのため、個人がM&Aを行う際には、専門家への相談や詳細な調査が必要になります。
また、個人がM&Aを行う方法として、「M&Aの仲介業者」「マッチングサイト」「事業引継ぎ支援センター」「商工会議所」などを活用することができます。
個人M&Aの資金調達の流れ
個人M&Aは、個人が他の企業を買収することを指しますが、これには資金調達が必要であり、計画的に進める必要があります。
資金調達の流れは、個人M&Aの成功において重要なステップです。この章では、個人M&Aの資金調達の具体的な流れについて解説します。
個人M&Aの資金調達は、以下の4つのステップを経て進められます。
- ビジネスプランの作成する
- 直接金融または間接金融の選択する
- 資金提供者との交渉する
- 契約を締結する
これらのプロセスを丁寧に進め、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることで、資金調達の成功とM&Aの成功が期待できます。
ビジネスプランの作成
まず最初に、M&Aの目的と計画を明確にするためのビジネスプランを作成します。
ビジネスプランの作成は、事業の目的、市場分析、財務予測などを明確にし、資金提供者への信頼を構築するために必要不可欠です。
適切な方法で作成し、必要なポイントをカバーすることが必要になります。
ちなみに、ビジネスプランの作成が必要な理由は以下の2点です。
- 事業の方向性の明確化:
事業の目的や目標を明確にし、どの市場に焦点を当て、どの戦略を採用するのかを明確にするため - 資金提供者への信頼の構築:
事業の可能性と信頼性を示し、資金提供者からの資金調達をスムーズに進めるため
ビジネスプランの作成方法は以下の通りです。
- 事業の目的の明確にする:
事業の目的と目標を明確にし、事業の長期的なビジョンを定義する - 市場分析を行う:
対象市場のサイズ、成長率、競合状況などを分析し、市場の可能性を評価する - 財務予測を行う:
収益予測、コスト予測、キャッシュフロー予測などを行い、財務の健全性を評価する - 戦略の設定:
マーケティング戦略、販売戦略、運営戦略などを設定し、それぞれの戦略がどのように事業の目標達成に貢献するのかを明確にする
ビジネスプランを作成する際の注意点は、以下の通りです。
- 実現可能な予測を立てる:
過度に楽観的な予測は避け、リアルな数字をもとに作成することが重要 - 明確かつ簡潔な表現:
ビジネスプランは明確かつ簡潔に表現することが求められ、資金提供者が理解しやすい内容を心がける - 専門家の意見の取り入れる:
必要に応じて、財務や市場分析の専門家の意見を取り入れ、ビジネスプランの質を向上させる
ビジネスプランの作成は、個人M&Aの資金調達プロセスにおいて重要なステップであり、事業の目的の明確化、市場分析、財務予測などを通じて事業の可能性を評価し、資金提供者への信頼を構築します。
適切な方法でビジネスプランを作成し、明確な情報を共有することができれば、資金調達と事業の成功する可能性が高くなります。
直接金融または間接金融の選択
ビジネスプランの作成した後は、資金調達の方法の選択です。
資金調達には、主に直接金融(投資家から直接資金を調達すること)と間接金融(銀行などの金融機関から借り入れること)の2つの方法があります。
この段階で正しい選択をすることは、資金調達の成功と事業の安定に直結します。
直接金融と間接金融の選択は、事業のニーズ、資金調達の条件、そして資金提供者との関係に基づいて検討されるべき重要な決定です。
直接金融と間接金融の選択において重要なポイントは、以下の通りです。
- 事業のニーズの理解:
事業の規模や資金調達の目的を理解し、どの方法が最も適しているのかを判断する - 利息率と返済条件の確認:
資金調達の利息率や返済条件を確認し、事業の財務負担を評価する - 資金提供者の評価:
資金提供者の信頼性や条件を評価し、長期的な関係を検討する
直接金融または間接金融の選択する際の注意点は、以下の通りです。
- 全てのオプションの検討:
直接金融と間接金融の両方のオプションを検討し、それぞれの利点とデメリットを理解する - 適切な資金提供者の選定:
信頼できる資金提供者を選定し、資金調達の条件を明確にする - 法律や規制の確認:
資金調達に関連する法律や規制を確認し、法律違反を避ける
個人M&Aの資金調達の流れにおいて、直接金融または間接金融の選択は重要なステップです。
事業のニーズに基づいて適切な資金調達方法を選択し、信頼できる資金提供者との良好な関係を築くことで、資金調達のプロセスをスムーズに進めることが可能になります。
資金提供者との交渉
ビジネスプランの作成と資金調達方法の選定を経て、次の重要なステップは資金提供者との交渉を行います。
この段階で適切な交渉を行うことは、事業の資金構造を築き、成功への道を拓くために重要です。
資金提供者との効果的な交渉は、相互の利益と信頼を築くことで、長期的な関係の基盤を作ることに繋がります。
では、なぜ資金提供者との交渉が重要なのでしょうか?
その理由は、以下の通りです。
- 適切な資金調達条件の確保:
事業のニーズと資金提供者の期待を調整し、適切な資金調達条件を確保するため - 長期的な関係の構築:
資金提供者との良好な関係を築くことで、将来的な資金調達や事業拡大の支援を受けやすくなるため
資金提供者との交渉で重要なポイントは、以下の通りです。
- 事業計画の明確な提示:
事業の目的、市場分析、財務予測を明確にして、資金提供者に事業の可能性と信頼性を理解してもらう - 資金調達条件の明確化:
資金調達の条件、利息率、返済期間などを明確にし、双方にとって適切な条件を交渉する - オープンなコミュニケーション:
資金提供者とのオープンなコミュニケーションを保ち、疑問や懸念を明確に解消する
資金提供者との適切な交渉は、事業の健全な資金構造と長期的な関係の構築において重要な役割を果たします。
交渉のプロセスにおいては、事業の可能性と資金調達条件を明確にし、法律や規制を確認することが必要です。また、専門家の意見を取り入れることで、交渉の質を向上させることが可能になります。
契約を締結する
資金提供者との交渉が成功に終わった後、資金提供者と契約を締結します。
この段階では、事前に交渉された条件を双方の合意を形式化します。適切な契約文書は、将来の誤解や紛争を避けるために重要です。
契約文書の作成が必要な理由は、以下の通りです。
- 法的保護:契約は法的な保護を提供し、資金提供者との合意を明確に記述するため
- 条件の明文化:交渉された条件を明文化し、双方の期待と責任を明確にするため
契約締結は、個人M&Aの資金調達プロセスにおいて法的保護と双方の義務・権利の明確化を図る重要なステップです。
法律の専門家を交えて契約文書の作成やレビューを行い、双方が理解し合意できる内容で契約を締結することで将来の誤解や問題を避け、安定した事業運営を支えることができます。
M&Aの資金調達に関する相談先
M&Aの資金調達に関する相談先として、以下のような機関やサービスがあります。
- M&A仲介会社
- 銀行(金融機関)
- 公的機関
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、M&Aの全体的なプロセスをサポートし、その中で資金調達も含まれます1。例えば、信金キャピタルは中小企業のためのM&A仲介業務と投資育成業務を行っています。
銀行(金融機関)
銀行は、融資やアドバイザリーサービスを提供しています。例えば、三菱UFJ銀行はM&Aアドバイザリー業務を提供しており、対象企業の選定から取引成約にいたるまでの総合サポートを提供しています。
公的機関
公的機関も資金調達の相談に乗ってくれます。例えば、経済産業省では事業資金相談ダイヤルを設けており、融資制度や提出書類・申込手続きに関する相談が可能です。
これらの相談先は、個々のニーズや状況により最適なものが異なるため、具体的な取引や契約前には専門家への相談や詳細な調査が必要です。
M&Aの相談先に関して、以下の記事で詳しく解説しているので、気になる方はチェックしてみてください。
個人M&Aの資金調達の注意点
個人M&Aの資金調達の注意点は以下の通りです。
- 手続きに予想以上の時間・コストがかかる
- 不要な資産などを引き受けてしまう可能性がある
- 虚偽の情報がないか注意する
手続きに予想以上の時間・コストがかかる
個人M&Aでは、会社全体を買収する場合や事業部分だけを買収する場合など、手続きの内容が複雑になることがあります。そのため、手続きに予想以上の時間やコストがかかる可能性があるので注意が必要です。
不要な資産などを引き受けてしまう可能性がある
個人M&Aでは、買収する企業の資産や債務を引き継ぐことになります。そのため、不要な資産や債務を引き受けてしまう可能性があるので注意が必要です。
虚偽の情報がないか注意する
個人M&Aでは、買収する企業の情報を基に交渉を行います。そのため、虚偽の情報が提供されていないか、注意深く確認する必要があります。
補足①:M&Aにおける資金調達と融資の違い
M&Aおけて資金を手に入れるための方法には以下の2種類があります。
- 資金調達
- 融資
資金調達と融資の主な違いは、資金調達が資本の提供者に対して所有権の一部を提供することが可能であるのに対し、融資は借り手が一定の期間内に借りた金額を返済する必要があるという点です。
資金調達
資金調達は、M&Aを実施する際に必要な資金を金融機関や投資家から得ること全般を指し、資金調達の方法は「直接金融」と「間接金融(融資)」の2つがあります。
「直接金融」は、対象企業が銀行などの第三者を介さずに証券市場等を通じて、直接投資家から資金調達する方法です。具体的な方法としては、「増資」や「社債発行」があります。
融資
融資は、金融機関などから借り入れることを指します。
これは「間接金融」とも呼ばれ、対象企業とお金の出し手の間に第三者(主に銀行)が存在する取引形態です。
第三者である金融機関が間に入ることで、個人の資金が円滑に企業へと融資されることとなります。
以上がM&Aにおける融資と資金調達の基本的な違いです。具体的な内容や条件は各契約内容により異なるため、具体的な取引や契約前には専門家への相談や詳細な調査が必要です。
補足②:M&Aにかかる費用について
M&Aを行う場合、さまざまな費用がかかります。
そのため、これらの費用について、資金調達をする場合には、事前にどの程度の費用がかかるのかを詳細に見積もったうえで融資の申込みをする必要かあります。
- 事業の買収にかかる費用
- 専門家へ支払う報酬
- デューデリジェンス手数料
- 相続税
- M&Aに関する費用
事業の買収にかかる費用
事業の譲渡をする場合、買収のための資金が必要です。
買収金額は、最終的には当事者間の合意により決定されますが、規模が大きな場合や事業価値が高い企業の買収の場合には、必要となる金額も数百万円から数億円と大きくなります。
専門家へ支払う報酬
M&Aの仲介業者に依頼して手続きをした場合、依頼した仲介業者や専門家に対して一定の報酬を支払う必要があります。
報酬の内容は契約によって異なりますが、一般的には「着手金」「成功報酬」「リティナ―フィー(顧問料)」が必要となる場合があります。
仲介業者を利用した場合には、規模に応じた手数料や報酬が必要となりますが、小さな規模の案件でも100万円~300万円程度の資金が必要です。
デューデリジェンス手数料
デューデリジェンスは、買収や譲受会社が相手先企業に対して行う、財務や業務に関する事前の調査のことです。
デューデリジェンスを行うことにより、「簿外債務(バランスシート上に記載されない企業の資産や負債)」「偶発債務(将来の不確実な事象によって発生する可能性のある負債)」「法律上の手続きの不備の確認」「訴訟リスク」を軽減することができます。
デューデリジェンスの主な対象項目は、財務・税務に関するものがメインですが、それ以外にも法務・労務・許認可などについて調査を行う場合もあります。
デューデリジェンスの費用は調査の項目にもよりますが、財務・税務に関するデューデリジェンス行った場合の相場の額は数10万円〜200万円程度です。
相続税
M&Aで会社を買収した場合は、相続税が必要となる可能性があります。
相続税は、その事業の売買価格ではなく、原則として財産評価基本通達にもとづく相続税評価額により算定されます。
つまり、大規模なM&Aほど相続税は高くなり、その支払いは会社の引き渡しのときに必要となるため、買収費用以外に相続税の費用を準備しておく必要があります。
M&Aに関する諸費用
M&Aでは、直接的な買収費用以外にも、「従業員の給与」「移転の支度金」「印紙代」「設備や備品の購入費」などの細かい費用が発生します。
M&Aの方法によっては、「役員変更」「事業目的の追加」「不動産の所有権移転」などの登記手続きが必要になる場合があります。
ほとんどの場合、買収費用以外の細かい資金を賄うことができないため、金融機関から融資を受ける必要があります。
融資を受ける際は、「総額でいくらの資金が必要となるのか?」を明確にするため、各費用でかかる額を正確に把握しておくことが必要です。