事業概要
下水道関連のコンクリート製品の製造販売と仕入販売。自社でマンホール関連のコンクリート製品を製造し、土建業者に販売している。また、自社製品だけではなく、下水道関連商品の他社製品の仕入販売も合わせて行っている。社員は15名程度。創業は戦前という歴史のある会社であり、顧客である土建業者への知名度は高く、パイプも強い。社内もアットホームな雰囲気で、社員は皆社長に対して忠実である。しかし下水道事業は市場が縮小しており、業績の低迷が続いていた。
下水道事業の業績悪化を補うため、5年前にエクステリア事業を新規事業として立ち上げ、2つの事業部を運営するようになった。エクステリア事業は市場が急成長しており、下水道事業とは繁忙期と閑散期が重複していないため、当社としては好都合であった。しかし、事業部間は完全に分離しており、事業部間のシフトがなかった。歴史の古い下水道事業の社員達にはプライドがあり、エクステリア事業の人員と距離を置いている状態であった。
財務状況
売上高は数億円程度であるが、近年下水道工事案件が減少傾向であり、売上は減少傾向である。長期間営業赤字が続いており、借入も売上高の8割に達するほど増加していた。新規事業の売上は増加しているが、利益は回復していない。財務分析を行った結果、エクステリア事業は原価率9割近くに達しており、売上は急激に伸びているものの赤字が続いていることが判明した。
問題点
1つめは、下水道事業の製品の値付けである。自社製造の製品については当社しか製造できない製品が多く存在しており、高利益率の値付けでも業者は当社から購入しなければならないため、ある程度価格のコントロールが可能である。それにも関わらず、仕入販売の製品と同様の低い粗利率での値付けをしていたため、十分な利益が取れていない。
2つめは、当社のカーポート事業の位置づけが曖昧なことである。同事業を会社のもう1つの事業の柱にすることを打ち出していないため、小さい会社ながら事業部間でセクショナリズムが生まれている。
3つめは、事業部間で人員のシフトが行われていないことである。繁閑時期がずれているため、互いの閑散期に現場に参加できる余裕はあるが、実際に他事業部に参画する人材はおらず、各々閑散期に手待ちが起きている。
4つめは、エクステリアの見積システムが曖昧で、収益管理が不十分なことである。案件単位での収益管理も不十分で、かつ振り返りも行っていなかったため、赤字の垂れ流し状態であるが、それを認識できていない。かつ、エクセルで作成する見積システムに不備があり、短時間で必要な利益を算出することが困難であった。さらに粗利率の基準も曖昧であるため、ほぼ顧客の要求どおりの価格を提示していた。
5つめは、エクステリアの外注費が高騰していることである。当社には左官と大工の人材が不足しているため、案件が増える度に外注が嵩んでいた。
強み
1つめは、社員が社長に忠実であり、社長が方針を打ち出せば会社全体が方針通り同じベクトルになること。
2つめは、当社しか製造できない製品があり、価格コントロールが可能であること。
3つめは、得意先である土建業者に高い知名度があり、関係性ができていること。
4つめは、エクステリアは得意先が大手ハウスメーカーやリフォーム会社であり、当社の対応力や高品質により当社との信頼関係が構築されていること。そして新築やリフォームの一部であるため、ある程度値上げの交渉が可能であること。
外部環境
下水道事業は、需要が減少しており、下水道向け製品の大手商社が競合である。
また、エクステリア事業は需要が増加しているが、参入障壁は低いため、競合となりえる新規参入業者が増えている。
改善策
まずは社長自身がエクステリア事業の位置づけを、自社のもう1つの柱として打ち出すことである。社員は社長に忠実であるため、社長がこの方針を打ち出すだけで、事業部間の交流は可能となる。
次に、事業部間のシフトを行い、可能な限り事業を内部社員で賄って外注費を減らすことである。現在各々の事業部の閑散期に社員の手待ちが発生しているため、手待ちの内容事業部間での機動的なシフト体制を構築する。
続いて下水道事業の製品の値上げを行うことである。価格表を見直し、各製品で粗利率が表示されている内部価格表を作成し、価格改定を行う。顧客に対しては、値上げする旨の説明を丁寧に行うため、まずは電話で伝え、その後訪問して値上の理由(材料費高騰など、得意先に納得できる理由)を明確に丁寧に伝えて、得意先に無理なく受け入れてもらえるよう配慮する。
次に、エクステリアの見積システムを再構築すること。工事案件は現在見積作成に時間がかかるため、簡単に作成できるよう、エクセルシートを見直す。具体的には、固定費である原価の経費や労務費を売上に応じて自動計算できるようにする。それに変動費である材料費と外注費を加えて、即原価が計算できるようにする。また、粗利率の基準を明確にし、その基準を上回るように見積を作成するようにする。さらに工事終了後は、見積価格と実際の価格の差異分析を行い、差異が大きい場合はその原因を究明して対策を打って、PDCAを回して利益率確保を目指す。
最後に、社内教育を行うことである。具体的には、社員全員に、左官と大工のスキルを習得させて、外注費を削減する。当社は工場があるので、これらの練習場を作って、各自スキル習得のスケジューリングを行って、短期間でスキルが習得できるようにし、社員のマルチタスク化の体制を構築する。