旅館/事業再生(事業DD)

事業概要

 当社は地方温泉にある2つの旅館を運営。

 1つは全室が30室強、収容人数150名程度の中級レベルの旅館、もう1つは10室程度の高級旅館である。

 当社は以前、業績が大きく落ち込み、一時は売上高営業利益率が▲40%強まで悪化し、売上高借入金比率は300%を超えた。

 そして事業承継により息子が新社長に就任し、10年弱で売上を2倍以上に増加させ、みごとに営業利益を黒字化させた。

 そして、某ネットエージェントの口コミでは双方の旅館とも高い評価評価を得ており、同温泉地の他旅館と比較すると、高級旅館は全体で2番目の評価、中級旅館も5番目に位置するまでになった。

 借入金も、当時作成した事業計画どおりに順調に返済し、最悪時期の半分まで減少させた。

 ただし、売上高借入金比率は依然として100%を超えている借入過多状態であり、金融機関としては、収益が改善している現在では返済額を上乗せするべきであると主張。

 一方で社長は、業績の回復には投資が必要であり、返済額の上乗せは難しいと主張している。   

社長の再生の取組み

 社長はさまざまな取組みで旅館の価値を向上させた。

 具体的には、まずは敷地内の公園をライトアップするなどアート化を推進し、集客力を高めた。

 また、本公園で、昆虫採集ツアーや釣り体験など、子供が楽しめる体験プログラムを実施し、その他バーベキューや縁日コーナーなど、1日遊べる空間を作り上げた。

 施設は、各部屋のリノベーションや、露天風呂の追加などを行い、各部屋の価値を向上させ、客単価を向上させた。

 その他、SNSで徹底的に情報を発信し、全国に価値を浸透させていき、ガイドブックで高評価を得るまでになった。

 このように、社長は矢継ぎ早に施策を実行し、集客力を大きく増やすことに成功し、短期間でV字回復を実現させた。

 しかもこれらは決して小手先の施策ではなく、すべてが旅館の価値を向上させるためのものとなっている。

 社長のブレない理念と明確なビジョンにより実現したものといえる。   

課題

 当社がリノベーションを先行させているのは、高級旅館の方である。

 そして高級旅館の部屋のリノベーションは概ね終了したが、いくつか露天風呂がない部屋があり、早急に露天風呂を導入する必要がある。

 一方で、中級旅館の部屋のリノベーションや改装は手付かずのままの状態となっている。

 建屋の裏は古びており、顧客には到底見せることができない状況である。

 また、未使用の部屋が幾つかあり、雨漏りがしているところもあるが、放置状態である。

 さらに屋上は、見晴らしがよく、かつてはここでビアガーデンを実施していた。

 しかし現在は、洗濯物を干す場所になっている。

 ここもリノベーションによって価値を高められる場所といえる。

 その他、社長自身が率先して再生に取り組んでいるため、社長についてこれず、不満を持つ社員も存在していた。   

改善策

 当社は様々な改革で企業価値を向上させてきた。

 しかしまだ道半ばであり、この取組みを停止してまで返済を優先させる必要はないと判断する。

 改善策としては、組織体制の再構築である。

 すべてを社長が指示しているため、部門長に権限を委譲し、部門で自浄機能、統率機能を発揮させるようにして、ルーチン業務については支配人が管理する体制を構築する。

 そして社長は引き続き、リノベーション等の価値向上に注力すればいい。

 社内に不満分子が存在するのは一部であり、社長自身が積極的に再生へ取組んできた副作用であり、大きな問題ではないと考えられる。

 ただし、今後は社員とのコミュニケーションを積極的に行い、現在社長自身が行っている再生への取組みについて理解を得られるようにすることが大切である。

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