事業概要
当社は社員数20名程度の自動車部品卸売業で、40年前に現社長の父が自動車関連商品の販売業として創業し、5年前に息子に事業承継を行った。
同社の事業は「部品事業部」と「カーケア事業部」の2事業からなる。
部品事業部は、創業時から実施している事業であり、自動車部品の卸売で、部品メーカーから直接、あるいは商社を介して仕入れ、地域のカーショップや整備工場に卸している。
カーケア事業部は、数年前に現社長が立ち上げた新規事業である。社長自ら数十種類の原材料を組み合わせ、実験を繰り返して開発したコーティング剤「MAX(仮名)」が主要製品である。MAXは、他社製品と比較して「雨ジミがつきにくい」「きれいに施工できる」という強みがあるとのこと。この製品をベースにして高級カーケア製品のブランドを立ち上げ、ブランド力向上のために、さまざまな新規開拓営業や販促を強化している。具体的には、コーティング剤MAXに対して「高級感」「富裕層中年男性の高級化粧品」というイメージを彷彿させるような世界観を打ち出す動画を作成したり、関連グッズを作成したりしている。
また現社長は、京セラ名誉会長である稲森和夫氏にかなりのめり込んでおり、盛和塾で経営の極意を学び、その内容を学ぶ研修を社内で定期的に実施している。具体的には、稲盛塾のビデオを見て社員が感想を言う、という形式。これを業務終了後に、残業代未払の中で実施している。これは、表向きが「自由参加」であるためであるが、無言の圧力によりほぼ毎回全員が出席を余儀なくされている。
財務状況
売上高は5~7億円程度で、ここ数年で1億円以上増加している。一方で以前は営業利益率が黒字で経緯していたが、この数年で営業利益は大きくマイナスに陥っており、直近の営業利益率は▲7%近くにまで登っている。赤字の理由は、カーケア事業部で大幅に販管費が増加したためである。具体的には、カーケア事業部の人件費、出張のための旅費交通費、営業活動のための交際費、動画作成や販促活動などの販売促進費が膨大に増加し、販管費は3年前と比較して2,500万円以上も増加した。
問題点
最大の問題は、当社は社長のワンマン体制であり、稲盛塾とカーケア事業しか興味がなく、現存する部品事業部のさまざまな問題に対して改善意識がない事である。社長は社員の意見を取り入れようとする姿勢がなく、社長以外に幹部を担う人材もいない。
また、社長が自ら行っている盛和塾の研修は独りよがりで、社員全体の士気を低下させており、社長が狙っている効果とは真逆の弊害を生んでいる。社員から、研修廃止の声も上がっているが、社長は耳を貸さない状況である。
その他、部品事業部の社内体制は、業務が非効率で属人的であることである。商品の種類が膨大で、在庫も膨れ上がっているが管理が不十分で、どこに何が何個あるのかが、新入社員では把握できない。取引先の問合せに対し、営業担当者が在庫確認と納品に走り回っている状況である。本来であれば、まずは本業である部品事業部の業務改善・効率化を図り、低利益率を改善する取組みを実施するべきであるが、取り掛かる意識がない。
また、社員のOJTもないため、社員の育成が進んでいない。当社は新入社員が入っても退社する人材が多いのは、この残業時間に残業手当未払で実施される盛和塾の研修と、OJTがないことが大きな原因と思われる。
カーケア事業も、売上は増加しているが、コストを過剰に掛けすぎている。社長曰く「必要な初期投資」というが、限度を超えており、実際には販促費などランニングコストも膨大にかかっている。そして実際にコーティングMAXの動画は、膨大なコストをかけて制作されたものであるが、高齢男性の化粧品を彷彿されるもので、イメージ戦略を狙ったものである。そのため、情緒面を前面に出し過ぎて、機能面の強みと効能が理解できない。イメージ戦略は、知名度があり資本力のある大企業の戦略であり、即効性はない。カーケア製品は化粧品と異なり、仕様人数も頻度も限られている。競争も激しい。そのため、売上増加も限度があり、今後どの程度伸びるかは疑問が残る。
改善策
まずは社長の意識を改善し、経営体制を見直すことである。社長の部品事業部の業務改善の取組みは、単に盛和塾のビデオを見せるだけであり、社員に改善を丸投げしているだけである。これでは改善が進まない。社長自身が部品事業に興味を失っている状況のため、社長か、或いは部品事業の幹部を任命し、徹底してしくみを構築して業務効率化を図るべきである。ただし、社長に意見を言う人材は社内におらず、社長が簡単に意思を変えるとは思われないため、税理士やコンサルタントなど、外部から意見を言う人材が必要と思われる。
次に、部品事業部の在庫管理を徹底することである。在庫の見える化とシステム化を導入し、事務員が、問合せに対して即在庫を把握でき、出荷できる体制を構築する。
続いて、カーケア事業は、経費を見直して、経費を最小限に押させて効率的に営業活動や販促を行うようにする。コーティング剤MAXの強み、効果レベルを見える化し、従来のイメージ戦略から、強み・ベネフィットといった機能面を前面に打ち出す戦略に切り替えることが望ましい。