なぜスモールPMIは失敗が多いのか?9つの失敗要因

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スモールPMI9つの失敗要因

中小企業のPMIである「スモールPMI」では、多くの買収企業の社長が「失敗した」と感じていると言われている。その原因は概ね以下の9点である。

 

失敗要因:財務デューデリジェンス未実施

失敗要因:法務デューデリジェンス未実施

失敗要因:ビジネスデューデリジェンス未実施

失敗要因:社員とのコミュニケーション不足

失敗要因:業務未把握、PDCAが回せない

失敗要因:中小企業の実態と経営手法を知らない

失敗要因:自社・顧客・競合(3C)の現状未把握

失敗要因:ビジョンが不明確

失敗要因:ブランディングできず、低価格競争に陥る

失敗要因:大企業のPMIをそのまま活用する

 

スモールPMIの失敗要因:財務デューデリジェンス未実施

中小企業では、年次決算のみを実施し、試算表を未作成で月次決算を行っていない会社が多数ある。

まずはこの事実がほとんど知られていないのが実情である。

試算表を未作成の企業をM&Aする際に、年次決算から数か月が経過している状況で、譲渡対象企業のオーナーから進行期の業績を口頭のみの確認で済ませる場合も多いのが実情である。

しかし、いざM&A実行後に月次決算を行ったら、足元の業績が想定以上に悪化しているケースがある。

このように、譲渡対象企業オーナーの話を鵜吞みにして、実際の業績を確認しないままM&Aを実行してしまうと、買収後すぐに譲受企業の現預金が不足し、親会社から追加でお金を貸し付けることになり、事実上の買収価格が高くなるケースもある。

なお、中小企業では、数十万円から数百万円程度の横領が比較的多く発生している。

経理担当が帳簿を改ざんして着服していたり、営業担当者が売上金を着服していたりするケースが代表的である。

横領が起こりやすい中小企業の特徴は以下のとおりである。

  • 社長が経理に無関心
  • 経理担当が1名で記帳などを全て行っている
  • 月次決算未実施

中小企業や小規模企業では、経理担当を複数人おくことは難しい場合も多く、長年任せていて社長も信頼しきっていて全く管理しておらず、しっかり管理してくれていると思い込んでいるケースも多くあるのである。

 

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スモールPMIの失敗要因:法務デューデリジェンス未実施

中小企業では、取引先との固定的かつ従属的な関係性から、物価の高騰などがあっても価格の見直しをせず、不利な契約が長期間継続していることが良く見られる。

また、非常に多いケースとして、契約書自体がなく過去の不利な取引慣行がそのまま継続している事例である。

例えば、製造業で取引先が材料を支給し、加工料のみ受領していた先で不良品が発生した場合は、その不良がどちらの責任か明確でなくても、その分の材料費を負担させられるというケースである。

この場合、材料自体は加工料よりも高く、当社の請求額を超過して材料費の支払いが高くなる場合もあり、実質的には赤字となる場合もある。

こういったケースでも、契約書はなく、過去の商慣習から不利益な契約が継続しているのである。

そのため、契約書がなくても重要な取引先との取引条件を確認しておくことが必要である。

また、中小企業では、タイムカードがないことも多く、譲渡対象企業のオーナーから口頭で残業は一切ないと伝えられるケースも多く存在する。

その他にも、一定時間残業が発生したとみなして賃金に残業代を含んで支払う固定残業制(みなし残業)を取っている会社もある。

本来は、固定残業制の場合、雇用契約書等に固定残業は月30時間など、時間の指定があり、その時間を超過すると別途残業代を支払う必要があるが、一切支払っていない会社は多く存在する。

このようなケースでは、M&A実行後に経営陣が変わったことをきっかけとして、従業員から改善を要求され、過去の未払い残業代の請求を受けた結果、正常収益力や実態純資産が低下する場合もある。

 

スモールPMIの失敗要因:ビジネスデューデリジェンス未実施

ビジネスデューデリジェンスは、事業の中身を分析するための調査であり、経営や組織、営業、工場や店舗など、事業の各機能の業務での問題点や強みがどこにあるかを確認して、事業面のリスクや成長の可能性を探ることである。

しかしスモールM&AやスモールPMIではほとんど実施されていない。

実はこれは、非常に大きな問題だといえる。

我々は日常の生活で買物をする時に、百円の品物であっても、しっかりと中身を把握した上で購入する。

しかしM&Aでは、数百万円から数千万円、あるいはそれ以上の金額を支払うにも関わらず、ビジネスデューデリジェンスを実施せず、つまり事業の中身を把握せずに購入しているのである。

譲渡企業が大企業の場合、決算書が正確で内部体制もしっかりしているため、それほど大きな問題ではないかもしれない。

しかし中小企業の場合は、売掛金に不良債権が含まれていたり、在庫に死蔵在庫が含まれていたり、賃金などの未払があるケースが多い。

また同じ業種であっても、経営手法や管理体制、業務フロー、従業員のスキルなど、事業の中身は各企業によって異なっている。

それでも事業の現状を把握せずに買収しているのである。

そのため、買収してからさまざまな問題が発生し、結局対処しきれず「M&Aは失敗だった」と後悔する社長が後を絶たない。

このような事が起きる要因の1つに、ビジネスデューデリジェンスは、経営コンサルティングの高いスキルが要求されるため、コンサルタントのような専門家の中でも実施できる人材がほとんどいないことが挙げられる。

また、費用削減のため譲受企業自らがビジネスデューデリジェンスへ取り組んだとしても、譲渡企業の経営や組織体制、営業や製造など各機能の問題点や強みを抽出することは難しい。

 

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スモールPMIの失敗要因:社員とのコミュニケーション不足

中小企業は大企業と異なり、管理・統制のしくみが不十分な場合が多くあり、経営者と従業員が、指揮命令系統というより、人間関係でつながっているケースが少なくない。

そのため経営者と従業員との信頼関係が希薄であれば、従業員は社長の指示に従わない場合がある。

そして、経営者と従業員との信頼関係を構築するための最も重要な要素がコミュニケーションなのである。

例えば大手企業では、管理者が部門全員に指示を出す際、特に個別に丁寧に説明しなくても、事務的にメールで一斉送信すれば伝わる。

一方で中小企業の場合、メールで一斉に指示を出しても現場は動かないという状況が多々発生するのである。

これは中小企業の業務が労働集約型であり、各人の業務が固定化されているため、メールで新たな業務を部門単位で依頼しても、従業員は自分を当事者として認識しないのである。

また、中小企業の特徴として、従業員の給与は大手企業の半分か3分の1程度で、ボーナスも福利厚生も少なく、昇格もないに等しいため、大企業と比べて仕事に対するインセンティブが圧倒的に少ないのが現状である。

中小企業の従業員はこうした環境の中で日々の仕事をこなしているため、これ以上仕事を増やしたくないと考える傾向がある。

そのため従業員との信頼関係が希薄であれば、社長であっても従業員の重い腰を上げさせるのは非常に難しいのである。

そのため、買収後に新社長が、この状況を知らずに、従業員とコミュニケーションも取らずにメールでそっけなく各自の業務以外の指示を出してしまうと、従業員のやる気が高まらないばかりか、経営者に対して不信感を抱く可能性さえある。

 

スモールPMIの失敗要因:業務未把握、PDCAが回せない

PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善行動)の頭文字を取ったもので、経営状況を振り返り、問題があれば改善する、ということを繰り返すものである。

このPDCAを回せていなければ、日々の問題が放置され、いずれは問題が山積みとなるため、業績が悪化して改善が図られない状態に陥る可能性が高くなってしまう。

ただし、「PDCA」という言葉はよく聞くが、どうやって回せばいいのか、その方法について具体的に実施できている企業は非常に少なく、かつコンサルタントなどの専門家でもその手法を知らない人が多いのが現状である。

具体的に経営でPDCAを回すためにはどうすればいいのか。

まずは数値で現状を把握し、もし数値が悪化していれば、その原因を究明するために、現場で発生している現状を把握し、現場での問題点とその原因を究明する。

そして改善策を構築し、即座に改善施策を実行に移していくのである。

これを毎月繰り返すことで、様々な問題が改善するため、より良い経営が実現する。

業績の悪化や低迷の原因は現場にあるため、「問題点(数値)の発見→原因(現場)の究明→改善行動(現場)」を繰り返せば、業績はおのずと良くなるだけでなく、自立した経営が実現できるという訳である。

つまり、経営で重要なことは、業績(数字)と実務(現場)を紐づけて考えることなのである。

そのためには、期中で業績の状況を把握するためには「試算表」が必須である。

試算表とは、月次のPLBSのことである。

試算表で各月と、その月までの累計の業績を把握し、さらに前年同月比や計画比で差異を確認することで、実績の良し悪しを判断する。

しかしながら、試算表を作成しない中小企業が多いのが現状である。

そのため、もし期中で売上や利益が減少していても、タイムリーに業績を把握できないため、期中で対策を打つことができず、PDCAを回すことができていない。

それが年間のPLBSを大いに悪化させる要因につながるのである。

 

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スモールPMIの失敗要因:中小企業の実態と経営手法を知らない

中小企業はヒト・モノ・カネの経営資源が乏しいため、大企業で普通にできることが、中小企業ではスムーズにできないことが多くある。

それを知らずに、大企業と同じ感覚で中小企業の経営を行ってしまうと、経営者の思い描いた通りに現場が機能しないことが多々発生してしまうのである。

例えば、大企業では、経営幹部が各々の事業の「戦略」を構築し、具体的な「戦術」は担当者に任される。

しかし中小企業では、従業員は目の前の仕事しか経験していないため、従業員から戦術のアイデアはなかなか出てこないケースが多い。

そのため社長自身が、戦略だけでなく具体的なアクションの戦術まで構築しなければ、現場は動かないのである。

また、組織体制も脆弱なため、管理や統制が十分ではない。各部門の現場で問題が発生しても、その部門の管理者が責任をもって対応することなく放置される事がよくある。

組織図上は機能別の組織体制となっているが、組織の役割が徹底されておらず、各部門の管理者自身も現場の一作業員でしかないこともあるため、各部門で問題を解決できない場合が多いのである。

その場合は、各部門の管理や統制の業務まで、管理者ではなく社長が自ら行う必要がでてくる。

さらに、業務自体が属人的で、ルーチン業務の中で一人の従業員しか実施できない業務があり、その従業員が休暇を取ったらその業務が滞ったり、それがボトルネックとなって生産性の低下を招いたりすることがある。

このように、中小企業の実態を知らず、社長自ら現場改善に取り組むという意識がないと、譲渡企業を買収後にうまく事業を運営することができないケースが出てきてしまうのである。

 

スモールPMIの失敗要因:自社・顧客・競合(3C)の現状未把握

3Cとは、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の頭文字を取ったもので、3C分析とは、自社や競合の強み・弱み、顧客のニーズ・ウォンツを把握することである。

これらの情報を把握することが経営戦略の構築に必須の要件になる。

中小企業の社長は、自社の「業務面」の知識は詳しいが、「経営面」の情報には疎い場合が多く、自社の業績を把握していない、自社の課題や強みを理解していない、というケースはよくあることである。

また、顧客のニーズの把握も十分ではなく、一定数の固定客がいても、顧客がなぜ他社ではなく自社を選んでいるのかを十分に理解できていない。

また「固定客」に対して「既存商品」だけを販売しているため、新たな顧客のニーズも把握できていません。さらに、競合他社の状況把握も不十分で、競合他社の商品に関する知識は持っているのですが、何が当社より優れていて、何が劣っているのかを詳細に分析できていません。

このように多くの中小企業は、3C分析が十分ではないのですが、かつてのように市場環境が安定していれば、業務ルーチンが構築されて商品を買ってくれる固定客がいれば、事業はある程度回っていきます。

しかし昨今は、ネット社会による世界規模での競争が激化しています。さらに、AIDXなどの技術革新、脱炭素への取組み、新型コロナウィルスやロシアのウクライナ侵攻など、市場環境が目まぐるしく変化しています。このような世界では、市場の変化を見極め、機動的に顧客のニーズを把握し、競合他社を知り、その中でいかに自社の差別化を図っていくかを吟味して、柔軟に戦略・戦術を打ち出して迅速に行動していかなければ、事業を継続していくのは難しくなってきています。

 

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スモールPMIの失敗要因:ビジョンが不明確

「ビジョン」とは、会社の目指す将来の姿、目指すべきゴールである。

短期的なゴールでも、中長期的なゴールでも、経営者や従業員一人ひとりが目指せるゴールとして明確に描けるものであれば問題はない。

ビジョンの有効性としては、それ自体が会社全体の目指すべきゴール(目標)であるため従業員全体のベクトルが合わせやすくなることである。

また、会社が目指すゴールであるため、柔軟な設定が可能なことである。

例えば、「3年後に店舗を5店舗増やす」「5年後に売上高を2割増やす」といった定量的な内容や、「ワクワク・ドキドキする新たな商品を生み出していく」という定性的なビジョンもある。

経営の基本概念には、その他にも経営理念やミッションがあるが、あらゆる企業で有効に働くのがビジョンである。

なぜなら、従業員一人ひとりの力を経営に活かすためには、全従業員のベクトルを合わせる必要があり、そのためには共通のゴールを明確にする必要があるからである。

従業員はみな個性があり、スキルや得意分野、性格、年齢など、何もかもが異なる。

そのため、ビジョンが不明確で、かつ統制が取れていなければ、各従業員が自分の都合で業務を行うようになり、会社の考えとは異なる方を向いて業務を行うことにもなりかねない。

いくら個人的に優秀であっても、社長や会社の意向に従わなければ、会社全体ではマイナスに働いてしまうケースも出てきてしまう場合もある。

スキルや個性がバラバラな人材が集まった組織の力を、効率よく効果的に経営に活かすためには、まずは組織全体のベクトルを一方向に合わせ、従業員一人ひとりが、企業が示すゴールに向かって仕事を行うことが重要なのである。

 

スモールPMIの失敗要因:ブランディングできず、低価格競争に陥る

「ブランド」とは、会社名や商品名・サービス名そのものではなく、顧客がその会社や商品・サービスに対して思い浮かべる「価値イメージ」のことを指す。

例えば、アップルと聞いてイメージするのは「革新的」「おしゃれ」「高機能」「世界屈指の優良企業」などだと思うが、これこそがブランドなのである。

そして「ブランディング」とは、会社のブランド力をつける活動すべてを指す。

特に、企業の価値を高めて価値の高い商品・サービスを提供すること、そしてターゲット顧客に対して価値を発信し続けて浸透させるという経営活動全般を指す。

大企業は、大量仕入や、最新設備やITの導入で高い生産性を実現し、低コストで高付加価値な製品を大量生産することができる。

しかし中小企業は規模が小さいため大量仕入ができず、最新設備を導入する資金力もないため高コストになりがちである。

そのため中小企業は、低価格競争に陥ると大企業には太刀打ちできない。

また昨今の日本の市場は、モノや情報が溢れ、便利なモノやおいしい料理が安価で手に入る時代になった。

その結果、消費者のニーズは多様化し、多くの業界が成熟し、良いモノをより安く購入できるようになった。

そのため中小企業は、ターゲットを絞り込み、絞り込んだ顧客のニーズに応えられるような、差別化された商品を提供していかなければ生き残ることはできない。

要するに、沢山の量を売って利益の「額」を稼ぐのではなく、少ない量でも一定の利益額を稼ぐために利益の「率」、つまり高利益率で勝負するしかないのである。

つまり中小企業は、他社より高額でも買ってもらえるようになるために、自社のブランド力を磨き上げて、成長戦略を描いていくことが必要なのである。

 

スモールPMIの失敗要因:大企業のPMIをそのまま活用する

失敗要因の最後は、大企業向けのPMIの項目をスモールPMIでそのまま活用していることである。

大企業と中小企業では、PMIの取組みは大きく異なるため、大企業で実施されるPMIの項目をそのまま実施しようとしてもうまくいかない。

具体的には、「統合」を主体に置きすぎていることが挙げられる。

大企業で実施される従来のPMIでは、組織や人の「統合」が主体となっているが、スモールPMIでは、単体運営で組織を統合しないケースも多いのが現状である。

また、スモールM&Aでは、譲渡企業の財務諸表が実態とかけ離れており、BSに不良債権や死蔵在庫が多く残っている場合がある。

企業価値の算定でも、財務デューデリジェンスを実施せず、簿価ベースで算定するため、実際の価値と大きく差異が発生することもある。

こうして買収後の譲渡企業に想定外の問題が山積みであることが判明し、これらの問題に対処できず、PMIが失敗に終わってしまうのである。

これらは買収前に把握しておくべき事であるが、スモールM&Aは、売買価格が安価であり、譲受側もコスト削減のため各種デューデリジェンスを実施しないケースが多いため、買収後に譲渡企業にさまざまな問題が発覚するのである。

M&Aアドバイザーも、M&Aが成立しないと報酬が発生しないので、強引に成立させようとする傾向があるため、スモールPMIでは注意が必要である。

なお、上記のような状況に陥った譲受側の支援には、経営改善や成長のための戦略・戦術の構築が必要であるが、PMIを実施する企業の多くはM&A専門会社の関連会社で、コンサルティング力が乏しいため、これらの状況に対処できていないのが現状なのである。

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