スモールPMI実践(発展編)(4) 管理統合① 人事・労務

目次
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スモールPMIの管理統合「人事・労務」の概要

スモールPMIの管理統合について、「人事・労務」の概要は以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。

【スモールPMIの管理統合「人事・労務」の概要】

  • 管理機能の構成
  • 人事・労務① 人事・労務関係の法令遵守等
  • 人事・労務② 人事・労務関係の内部規程類等
  • 人事・労務③ 従業員との個別の労働契約関係等
  • 人事・労務④ 人材配置の最適化
  • 人事・労務⑤ 人事・労務分野におけるM&Aの実施形態による留意点

管理機能の構成

●譲渡側の経営基盤確立のための管理機能の実態把握

譲受企業・譲渡企業が、グループとして管理機能の連携を図り、経営基盤の整備・強化を行うためには、「人事・会計・法務・IT」など、共通して保有する管理機能の実態を把握することが重要である。

経営実態の把握については、M&Aの検討段階からビジネス・財務デューデリジェンス等を実施して情報の収集を行うなど、早い段階から対応の検討を行うことが望ましいと言える。

しかし、スモールM&Aの場合はデューデリジェンスの実施が難しいことも多いため、その場合は譲受後速やかに簡易デューデリジェンスを実施し、譲渡側の経営者や管理者、従業員へのヒアリングを行うとともに、各種の経営管理の帳票などを精査することで現状を把握し、譲渡側のリスクや課題の洗い出しを行う。

●課題やリスクの整理と行動計画の策定

管理機能の統合において検討すべき項目は多数あるが、多くの中小企業は資金面や人員に制約があり、全てに対応することが困難である。

そのため、譲受企業・譲渡企業それぞれの経営継続の観点から、リスクの大きさや課題の重要性、緊急性、実行可能性などを検証し、優先順位付けを行ったうえで対応することが望ましい。

また、実際の行動計画を策定する際には、「誰が・いつまでに・何を・どのように行うのか」を明確にして、ミーティングなどを通じて定期的に進捗の確認を行い、必要に応じて見直しを行うことが必要である。

ここでは、管理面において主な注意点を「人事・労務分野」「会計・財務分野」「法務分野」「ITシステム分野」の4つの機能別にまとめている。

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人事・労務① 人事・労務関係の法令遵守等

●人事・労務関係の関係法令

人事労務に関係する法令は多数ありますが、その諸法令を総称して「労働法」と呼んでいる。ここでは、多くの労働法の中で、最低限の基準を定めた「労働基準法」について確認する。

●労働基準法

労働基準法とは、労働者が働くにあたって最低限の基準についての法律で、賃金や労働時間、休日、有給休暇、退職などの労働条件などを定めている。

労働基準法には罰則があり、違反した場合には罰金刑や懲役刑といった罰則が科せられる。また同法は、たとえ会社と労働者が合意をしても、労働基準法の基準を満たしていない労働条件は無効となりますので注意が必要である。

雇用主は、従業員を雇用する際には、労働条件通知書などによって次の労働条件の書面による明示が義務付けられている(労働基準法15条1項)。

  • 契約期間に関すること
  • 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
  • 就業場所、従事する業務に関すること
  • 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
  • 賃金の決定方法、支払時期などに関すること
  • 退職に関すること(解雇の事由を含む)
  • 昇給に関すること

M&Aにおいては、譲渡企業で雇用時に書面の交付を行っていない場合もあるので、労働条件通知書の交付を行っているかについては必ず確認していただきたい。

人事・労務② 人事・労務関係の内部規程類等

●就業規則について

就業規則とは、労働者が働くうえで守るべきルールや労働条件などについて定めたものである。

常時10人以上の労働者を使用する雇用主は、事業場(支店、工場など)ごとに就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届出をしなければならない労働基準法89条)。

作成した就業規則は、労働基準監督署に届け出ただけでは不十分で、労働者に周知することで有効となる。そのため、事務所や休憩室など、労働者が誰でも手に取れるところに保管するのが望ましい。

●就業規則の記載事項

就業規則には、必ず記載する必要がある「絶対的必要記載事項」と、定める場合に記載する必要がある「相対的必要記載事項」、自由に記載できる「任意的記載事項」があり、以下のとおりである。

<絶対的必要記載事項>

・労働時間等(始業・終業の時刻、休憩時間、休日・休暇等)

・賃金(決定、計算・支払方法、締切、時期、昇給等)

・退職(退職、解雇、定年、契約期間の満了等)

<相対的必要記載事項>

・退職手当

・臨時の賃金、最低賃金額、賞与

・食費、作業用品等

・安全・衛生

・職業訓練

・災害補償・業務外の疾病扶助

・表彰、制裁の種類

・その他労働者全てに適用される事項

<任意的記載事項>

・目的、趣旨、定義等

・採用、服務規程

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人事・労務③ 従業員との個別の労働契約関係等

●雇用契約書

中小企業においても、新たに労働者を雇用する際には雇用契約書を締結する場合が多いが、法律上では必ず取り交わす必要はない。

労働者を雇用する際に義務付けられているのは、労働条件を書面にて通知することのみで、「労働条件通知書」等だけでも法律上の問題はない。

しかし、書面の通知のみでは、労働者が内容を理解しないまま就業し、あとあと残業や休日等の労働条件でトラブルになることも考えられるため、労働者と雇用主の双方が署名、捺印する雇用契約書を残す方がトラブルの発生を抑止する効果がある。

●時間外労働と36協定

労働基準法では、雇用主は1日8時間、週40時間を超えて労働者を働かせてはならないと定められている(労働基準法32条)。

ただし「フレックスタイム制」「変形労働時間制」を採用している中小企業の場合は、条件を満たせば、上記の労働時間を超過しても時間外労働にならない場合がある。

時間外労働や休日労働をさせるためには「36協定(さぶろくきょうてい)」(労働基準法36条)を締結し、所轄の労働基準監督署に届出が必要である。

36協定では「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当りの時間外労働の上限」等を、就業規則等に定めることで、時間外労働を命じることが可能となる。

ただし、時間外労働の上限は、月45時間、年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできないので、注意が必要である。

人事・労務④ 人材配置の最適化

●グループ全体で最適化を図る人材活用

譲渡企業・譲受企業ともに人的リソースが不足しているケースが多いため、M&Aをきっかけに個人別の適性や能力などを考慮し、グループとしての一体性の強化や人材活用の観点で最適な人員配置を心掛ける必要がある。

ただし、文化的に全く違う企業同士がグループとして連携するため、従業員にとって精神面や業務面で直接的に大きく影響を受けることから、実行の要否や時期など慎重に検討することが必要である。

●譲受企業の管理体制

グループとして一体性を強化していくためには、経営者や経営幹部、あるいは管理者など、譲受企業側から譲渡企業へ最低1名は派遣すること望ましい。

しかし、譲受側の人員不足により管理者を常駐させるのが難しいこともあり、常駐の管理者を置かずに定期的な訪問により管理しているケースも見られる。

そのような限定的な管理体制においては、譲渡企業の実態把握に時間がかかるため、訪問時には譲渡企業の従業員との面談やミーティングなどを通じて、しっかりとコミュニケーションを取ることで可能な限り早期に実態把握を行うとともに、信頼関係を構築することが重要となる。

また、中小企業では人材やスキル不足から、与えられているポストや役割と実務の内容が一致していないことが多くある。

例えば、経理部長の肩書で人事労務から営業も行っているなどといったことがあるので、現在の業務内容をしっかりとヒアリングし、個別のスキルや役割を把握したうえで、労働実態に合った役割分担の見直しも必要となる。

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人事・労務⑤ 人事・労務分野におけるM&Aの実施形態による留意点

●株式譲渡の留意点

株式譲渡の場合、譲渡企業の労働者は自動的に引き継がれる。そのため、残業代の未払いなどの賃金面やパワハラ等の労働災害についてのリスクも引き継ぐことになるので注意が必要である。

特に注意が必要な点について以下にまとめる。

<時間外労働の未払い>

・タイムカード等による時間管理を行っていない

・みなし残業労働制を採用しているが、定められた残業時間を超過しても残業代を支払っていない

・タイムカードを打刻した後に労働を続けている

<退職手当の支払い>

・退職手当の規定はないが支払い実績がある(この場合は、退職手当の支払い義務が発生する可能性がある)

・退職手当の規定はあるが、退職金の引き当てを行っていない

<労働災害>

・パワハラ、セクハラなどの発覚

・離職や訴訟リスク

<社会保険等の加入状況>

・一定の条件を満たすとパート社員でも社会保険の加入義務が発生

・未加入が発覚すると2年間遡って追徴される

・6か月以下の懲役、または50万円以下の罰金の罰則あり(健康保険法208条)

●事業譲渡の留意点

事業譲渡の場合は、譲渡企業の労働者と譲受企業との間で新たに個別の雇用契約を締結することになるため、株式譲渡のように譲渡企業でのリスクは原則引き継がない。

ただし、キーマンが離反しないよう注意が必要である。

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