スモールPMIのための法務デューデリジェンス(法務DD)

目次
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スモールPMIでの法務DDのチェック項目

スモールPMIでチェックすべき簡易の法務DDは概ね以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。

【スモールPMIでの法務DDのチェック項目】

  • 株式・関連会社
  • 労務管理① 就業規則、給与規程、退職金規程
  • 労務管理② 勤怠管理、残業代、社会保険
  • 許認可の確認
  • 契約関係
  • 得意先との定期契約
  • コンプライアンス違反、訴訟・紛争関連リスク
  • 知的財産権

法務DDで必要となる資料

法務デューデリジェンスも財務デューデリジェンスと同様に,デューデリジェンス実施前に売り手に資料を開示してもらう必要がある。

開示を要求する際には、開示を求める資料のリストを渡すことが一般的である。

ただし、中小企業のM&Aでは、譲渡企業の専門部署ではなく社長自らが担当することも多々あり、資料の開示を求めても、社長自身がどこに資料があるのか、そもそも資料があるのかも把握できておらず、なかなか資料の開示が進まないことも珍しくない。

そこで、売り手への資料開示の依頼はなるべく早めに行い、リストで求めた資料が全て揃ってからまとめて送るのではなく、揃った資料から随時開示するよう依頼しておくとよいであろう。

また、各資料について必要度をランク付けしておき、重要性の高い資料から早めに準備させるよう促すことも考えられる。

●開示資料

開示を求める資料は、対象会社ごとに異なるが、最低限必要な資料は共通している。そのため、事前に基本的な開示資料のリストを作成しておき、対象企業ごとにカスタマイズする。

また、法務デューデリジェンスにおける開示資料と、財務デューデリジェンスの開示資料は共通するものも多いので、事前に財務デューデリジェンス担当と打ち合わせをして開示資料の摺り合わせをしておくと効率的である。

もっとも、あまり開示を求める資料が重複することを気にすると時間を浪費するので、法務と財務で開示を求める資料が重なることにあまり神経質になる必要はない。

対象会社の社長が対応する場合、なぜそのような資料の開示を依頼されたのかと疑心暗鬼になることもある。そのため、各資料の開示の必要性について質問された場合には、きちんと説明できるようにしておくことも必要である。

【開示依頼資料リスト例】

<会社設立・株式関係>

  • 定款
  • 商業登記簿謄本
  • 株主名簿
  • 株券
  • 株主総会・取締役会議事録

<人事・労務関係>

  • 社内規定(就業規則・給与規定・退職金規程)
  • 雇用契約書
  • 労使協定(36協定等)
  • 従業員名簿
  • 賃金台帳
  • 給与明細・賞与明細
  • タイムカード

<各種契約関係>

  • 融資に関する契約書
  • 取引先との間の契約書
  • リース契約書
  • 施設の賃貸借契約書
  • 請負契約書・業務委託契約書
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スモールPMIの法務DD/株式・関連会社

●株式

株主だと思っていた者が実際には株主でないとなるとM&Aが根底から破綻することもあるため、株式の所有関係の確認は極めて重要である。

また法律上の問題から過去の株式の移転が無効となった場合にも、実際には誰が株主であるのかが変わってくるので、現在の株主所有関係だけでなく、過去の株式の変遷やその有効性の確認も必要である。

過去の株式の変遷は株主名簿で確認するが、中小企業の場合、株主名簿が作られていないことも珍しくなく、株主名簿があったとしても後日作成されたものなどで正確性に疑問があることも多々ある。

代表者や現株主も過去の株式譲渡を把握していない場合も散見される。

そこで、原始定款で当初の株主を把握し、その後の株式譲渡は株式譲渡契約書や遺産分割協議書、株式譲渡の承認の株主総会・取締役会議事録、確定申告書の「別表二 同族会社の判定に関する明細書」等で確認していくことになる。

過去の株式譲渡の経緯だけでなく、株式譲渡が適切になされていたのかも確認する必要がある。

中小企業は株式譲渡にあたって株主総会や取締役会の承認が必要な株式譲渡制限会社であることが一般的であるが、株主総会や取締役会の決議を経ていなかったり、議事録も作成されていない場合も見られる。

また、現在株式会社は株券不発行が原則になっているが、平成16年商法改正までは株券を発行することが原則であった。

そして、株券発行会社は株券を交付しないままの株式譲渡は無効になってしまうが、中小企業はこのことを認識せず株券の交付が行われていない場合がある。

定款変更で株券不発行会社になっていたとしても、過去株券発行会社であった時期に株券を交付しないままなされた株式譲渡が無効であることは変わらない。

そこで、除籍謄本により株券発行会社であった時期があるのかを確認し、株券発行会社の時代があれば,その時代の株式譲渡に株券交付がなされているか確認が必要となる。

株券の交付がなされていなければ,株券交付のやり直しや覚書の取り交わしなどの対策が必要である。

このように調査を行っても過去の株式譲渡の経緯やその有効性が明確にはならない場合もでてくるが、その場合は現実的なリスクの程度を考慮のうえ、M&Aを進めるか否かを判断せざるを得ない。

●関連会社

デューデリジェンスの対象に子会社・関連会社を含める必要がある場合もある。

中小企業の法務デューデリジェンスでは全ての懸念事項を全て対象にすることはできないため、対象に含めるか否かは、子会社・関連会社が対象会社の事業に重要な地位を占めているか、取引額が大きくないか等で決めることになる。

子会社・関連会社を売主が取得して買収の対象から外す場合、重要な経営資源や得意先との取引が子会社・関連会社に事前に移されてしまっていて、買収で期待する買収効果を達成できなくなっているようなことも見られるので、注意が必要である。

スモールPMIの法務DD/労務管理① 就業規則、給与規程、退職金規程

●労務管理の実情の把握

中小企業は大企業と比べて労務管理に法的な問題があることが多く,むしろまったく問題がないケースの方が少ないのが実情である。

M&A後に労務管理上の問題が顕在化すると、当初想定していなかった負担が発生することがある。

M&A成立後のPMIにおいて労務管理面の統合が必要となることもあるので、対象会社の労務管理の実情の把握が必要である。

実情の把握には、規則の有無やその内容等の形式に加え、実態がどうなっているのかという実質的観点からの確認が必要となる。

●就業規則・雇用契約書

雇用契約書、就業規則を確認し、対象会社の労働条件等の内容を確認して、労働基準法等の労働法制に違反していないかをチェックする。

常時10人以上の労働者がいなければ就業規則の作成義務がないため、中小企業では就業規則が存在しないことも珍しくはないが、入社時の労働条件通知書や雇用契約書すら存在しないことも散見される。

契約内容が分からない場合には代表者へのヒアリング等で確認することになる。

中小企業では、就業規則を会社が一方的に自由に変えても問題ないと誤解し、従業員に不利益となるような就業規則の変更を簡単に行っているケースも多々あるが、従業員に不利益な就業規則の変更は無効となるリスクがある。

その場合、賃金等についての就業規則の不利益変更が無効となって、想定外の賃金未払いが発生するおそれなどが出てくる。

そのため、過去に就業規則の不利益変更がなされていないかを確認し、不利益変更がある場合には変更に合理性があるのか、変更後の就業規則が周知されているのかといった点から、不利益変更が無効にならないかを慎重に検討する必要がある。

●給与規程

中小企業では給与の支払いに関する争いが極めて多いため、給与規程の確認が必要です。基本給のみならず、各種手当ての内容も確認していた方が良い。

なお、中小企業では、労働基準法等の制限を免れるため、実態は雇用契約であるにもかかわらず、形式的には請負契約や業務委託契約を締結して給与を請負代金や業務委託料としている場合や、役員であるとして役員報酬として支払っている場合などが見られる。

これらが実態に沿っているのかはきちんと確認が必要である。

●退職金規程

退職金が発生するのであれば、譲受企業はそのことも念頭に事業計画を立てる必要があるので、退職金規程、労働協約、労使協定等の定めの有無やその内容を確認する。

中小企業は規程等が存在しないまま代表者の裁量で退職金を支払っていた場合も珍しくないが、この場合、退職金支払についての労使慣行が成立していると判断されて、退職金の支払義務が認められることもあり得る。

そのため、規程等が存在していなくとも、過去の退職金の支払い状況の確認も必要となる。

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スモールPMIの法務DD/労務管理② 勤怠管理、残業代、社会保険

●勤怠管理

適切な勤怠管理が行われていないと、対象会社が未払残業代や過重労働の問題を抱えている可能性がある。

そのため、対象会社がどのように勤怠管理を行っているのかを確認する必要があるが、タイムカード等で管理しているところもあれば、日報等による自己申告に頼っているところ、さらには何の管理も行っていないところにも遭遇することもある。

まずは対象会社の勤怠管理方法を確認し、それが適切に行われているのかを精査する必要がある。

●残業代(時間外手当)

中小企業では、サービス残業名目で適切に時間外手当を支払っていないことは珍しくなく、労働時間の考え方も労働法制に反した独自の考えに基づいている場合も見られる。

また、本来は時間外手当の基礎賃金に含めるべきであるにも関わらず、給与の一部を何らかの手当として支給することで基本給を減らし、基本給のみで残業代を計算することで残業代を減額しているといったこともある。

そのため、対象会社の残業代の算定方法に問題がないかを確認する必要がある。

中小企業が時間外手当を支払っていない場合,その理由として、以下のような説明を受ける。

  • 固定残業代を支払っている
  • 管理監督者のため時間外手当は発生しない
  • 裁量労働制を取っている

しかし、いずれも法令が定める要件を満たしていなければ時間外手当を支払わない正当な理由とはならない。

要件を全く満たしていないにもかかわらず時間外手当を払っていない事例は多数存在する。

未払いがあれば、M&A後に多額の負債を抱えるおそれがあり、人件費も想定外に多額になってしまい、結果的にM&Aが頓挫することにもつながるため、慎重な確認が必要である。

●社会保険

社会保険に法令の基準に従って適切に加入していない場合、過去の保険料を追徴されるおそれ、さらには刑事罰を科されるおそれがある。

中小企業は適切に社会保険に加入していない場合があり、特に時短労働者に関して経営者の意識が低く、杜撰な対応がなされていることも少なくない。

しかも、近年の法改正により時短労働者の社会保険の適用範囲も拡大を続けており、経営者の認識とのズレも大きくなっていることから、法改正を踏まえた適切な対応がなされているかを法務デューデリジェンスで確認することが必要である。

スモールPMIの法務DD/許認可の確認

●許認可の重要性

対象会社の事業継続に許認可が必須であることもある。

対象会社が取得の難しい許認可を有している場合、M&Aの目的が対象会社の許認可自体である場合もある。

それにもかかわらず、M&A後に許認可の有効性に問題が生じれば、買収後の事業継続自体に支障が生じるなどM&Aを行った意味自体が失われる。

そのため、許認可に問題が生じないか事前に確認しておくことは極めて需要である。

許認可が承継できない場合には、M&A後に新たに許認可を取得できるのか、事業継続に問題がないのかを事前に確認しておく必要がある。

●許認可の有効性

まず、対象会社からのヒアリングなどを通じて、事業継続に必要な許認可を把握したうえで、本当に許認可を有効に保持しているのかを確認する必要がある。

有効に許認可を取得しているか、有効期限に問題がないか等については許可証等を確認する。

どのような許認可が必要かについては、各業種の許認可に詳しい行政書士への相談や、監督官庁に直接確認することも考えられる。

許認可が有効であったとしても、対象会社に違反行為がある場合には、許認可の取り消しや一定期間の事業活動の停止といった行政処分がなされることもある。

行政処分があればM&A後の事業活動に大きな影響が生じてしまうので、違反行為がないか、行政から指導・勧告・助言を受けていないか、不利益処分前の意見陳述の手続が行われていないか等を確認することになる。

行政法規に違反するか否かの判断は監督官庁の裁量によるところもあるので、この点についても事前に監督官庁に確認することを勧める。

●許認可の承継の可否

M&Aのスキームによっても、許認可が承継できるかは異なってくる。

事業承継の場合には買収後に再度許認可の取得が必要となるが、株式譲渡の場合には通常は許認可の承継が可能である。

もっとも、株式譲渡の場合においても、金融業等の一定の業種の場合には所定の措置が必要となる許認可も存在している。

そのため、株式譲渡の場合であっても安心することはできないので、許認可が承継できるのか否かを事前にきちんと確認しておく必要がある。

合併や会社分割等の他のスキーム場合にも、許認可の承継が可能かは事前によく確認していただきたい。

役所の運用等は変わることもあり過去の情報があてにならないこともあるため、M&Aの実行前に事前に監督官庁に相談して直接確認しておくなどの慎重な対応が必要になる。

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スモールPMIの法務DD/契約関係

●ポイントを絞った契約内容チェック

中小企業は大企業と異なり,法務デューデリジェンスに大きな資源を投入することはできないし,時間的な制限もある。

存在する契約の全てを網羅的かつ詳細に行うことは困難なため、各契約の重要性に応じてチェックに投じる人的・時間的な資源の比重を変える必要があり、ポイントを絞って契約内容を確認する必要がある。

●COC条項・譲渡制限条項

COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項とは、契約の一方当事者の経営権を持つ者が変わったことを理由に、相手方が契約を解除することができる権限などを与える条項である。

賃貸借契約やリース契約などはCOC条項がよく見られる。

対象会社の事業に重要な契約にCOC条項があった場合、M&Aを理由に当該契約が解除されてしまうリスクもあるため、重要な契約にCOC条項が設けられていないか確認が必要である。

COC条項が存在する場合、事前に契約の相手方と交渉し、M&A後も契約継続ができることを確認する必要がある。

●競業禁止条項

競業禁止条項とは、契約の当事者である相手方と競合する者との取引を禁止する条項である。

M&A後、別の競合先との取引を計画している場合、競合禁止条項が存在していると別の競合先との契約締結に支障が生じるおそれもあるため、事前に確認が必要である。

●独占権利付与条項

独占的権利付与条項とは、一定の地域において知的財産権等について独占的権利を付与する条項である。

対象会社が知的財産権を有していても、第三者に独占的権利を付与していないか、独占的権利を付与している場合はその範囲や対象会社の権利行使が留保されているか否か等を確認する。

対象会社が独占権利を付与されており、これが事業の重要な要素となっている場合には、独占権利の範囲やM&Aによって今後の存続に影響がないかを精査する必要がある。

●追記された特約条項

中小企業の契約書は、流通するひな形がそのまま使用されて,単に空欄を埋めているだけのケースも珍しくないが,ひな形の最後に手書きで特約が書き加えられていたりすることもある。

特約条項は,通常の取引とは異なる内容が規定されていることが多く,対象会社にとって極めて不利益な内容が規定されていることもあることから,注意して確認する必要がある。

●弁護士による契約書チェック

中小企業では弁護士を入れての法務デューデリジェンスを行わないことも多いが、仮に弁護士を入れて法務デューデリジェンス全般を行わないとしても、対象会社の事業に重要な契約関係に関しては、弁護士に別途確認を依頼することも検討した方が良い。

スモールPMIの法務DD/得意先との定期契約

●得意先との契約内容の確認

得意先との定期契約は、対象企業の事業継続に極めて重要なことが多いため、慎重に確認が必要である。

もっとも、大企業の場合は取引先との間で契約書を作成しておくことが一般的であるが、中小企業の場合、単発な取引先ではなく、昔から続く得意先との定期的な取引であると、余計に何の契約書等の書面も作成されていないことが多々あり得る。

そのため、契約内容について、過去の取引の具体的内容や代表者からのヒアリングで確認するほかない場合もある。

契約内容を確認すると、対象企業にとって不利益な契約内容のまま長年にわたって契約が継続していることもある。

その場合、取引先を変更する余地があるのか、変更の余地がない場合にはM&A後に得意先との間の交渉により契約内容を変更できる余地があるのか等について、検討の必要性が生じることも珍しくない。

●得意先との定期契約の継続性

M&A後も得意先との定期契約の維持が必要なのであれば、M&A後も契約を維持できるのかを確認する必要がある。

契約条項にCOC条項が存在しないかを確認するとともに、債務不履行により解除されるリスクはないか、中途解約されるリスクはないか、解除条項や解約条項を確認し、解除理由・解約理由が存在していないかを確認しなくてはならない。

COC条項や解除・解約事由などが存在しなかったとしても、中小企業の得意先との定期契約は代表者等の人的関係で成り立っている場合も多く、M&Aの後、人的関係が薄れると事実上契約関係の維持が難しくなることもあり得る。

そのため、M&A後も得意先との定期契約を維持するのが可能なのか、得意先維持のために代表者からどの程度の協力を得られるのか等について、代表者からヒアリングするなどしてリスクの程度を事前に把握しておき、もしリスクが高いのであればM&Aを実行するか否か、実行しリスクが顕在した場合に補填することが可能なのかを、事前によく検討しておく必要がある。

譲渡企業の代表者が、M&A前は協力を約束しながら、M&Aが終了すると手のひらを返して全く協力しなくなることもあるので、そのようなことがないよう最終合意書で協力について規定しておくことも考えられる。

●中途解約の可否

逆に、M&A後、それまでの得意先との定期契約を解約し、新たに譲受企業の関連会社や譲受企業の従前の取引先との取引に切り替えることを企図することもある。

その場合には、従前の定期契約を中途解約できるのかを解約条項から確認しておく必要がある。

中途解約条項が存在しなければ、合意解約の可否を検討することになる。

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スモールPMIの法務DD/コンプライアンス違反、訴訟・紛争関連リスク

●コンプライアンス違反

上場会社に比べて中小企業は、一般的にコンプライアンスに対する意識が低いことが多いが、コンプライアンス違反がM&Aの帰趨を左右しかねない重大な問題に発展することは珍しくない。

そこで、法務デューデリジェンスでは対象会社のコンプライアンス違反を確認する必要がある。

そして、コンプライアンスは法令に限らず、社内規範、さらに社会規範や企業倫理なども対象となり、問題となる法令も多々あるため、その範囲は極めて広いものとなる。

ただでさえ時間も費用も限られている中小企業の法務デューデリジェンスでは、全てのコンプライアンス違反を確認することなど不可能なので、業種ごとに問題が起こり安い点について重点的に確認する必要がある。

対象会社にコンプライアンス違反があるかは、対象会社の代表者のヒアリングで判明する代表者の意識や、対象会社が普段コンプライアンス違反に対してどのような体制を整備していたか等でもある程度は予想できる。

問題があることがうかがわれる場合には、通常以上に慎重な調査が必要である。

調査の結果判明したコンプライアンス違反の程度によっては、M&Aを進めるか否かの結論が変わってくる。

また、対象企業のコンプライアンスが不十分であるということであれば、PMIにおいてコンプライアンス体勢の構築が必要になる。

●訴訟・紛争関連リスク

既に裁判所に係属している訴訟の有無だけでなく、今後訴訟に発展するリスクのありそうな紛争の有無を確認する。

中小企業は上場企業と違い、リスクを低く捉える傾向が強く、元従業員や取引先からクレーム等が入っているにもかかわらず放置していることも多々ある。

後々リスクが顕在化した場合には、M&A後のPMIにも支障が生じかねない。

そのため、法務デューデリジェンスでは、係属中の訴訟だけではなく、元従業員や取引先等の間で何らかのトラブルがないかを確認することになる。

特に弁護士が介入している案件は紛争に発展するリスクが極めて高い案件になるが、中小企業では、相手方代理人として弁護士が介入し内容証明郵便を受領している等の事態になっているにもかかわらず、何らの対応もしないまま放置しているケースが珍しくないので、そのようなリスクの高い案件を抱えていないか、ヒアリング等を通じてよく確認する必要がある。

スモールPMIの法務DD/知的財産権

●知的財産権の帰属・制限の確認

中小企業でも特許権、商標権、著作権等の知的財産権の保有やライセンス契約を締結していることは珍しくないが、大企業と比べ適切な管理がなされていないことも多々ある。

そのため、保有する知的財産権等の内容を確認し、更新等の適切な管理がなされているのかをチェックする。

もっとも、資金的・時間的な制約から、確認するのは対象会社の事業に重要性がある知的財産権等に絞る必要がある。

産業財産権(特許権、意匠権、実用新案権、商標権)は特許庁への出願・登録が発生要件となっているため、特許庁のHPで検索可能である。

産業財産権ごとに保護期間が定められており、また、商標については10年ごとに更新が可能であるが、各権利が保護期間の範囲内なのか、商標については更新が適切に行われているのかも確認が必要となる。

そして、登録原簿から質権や専用実施権が設定され知的財産権の制限が存在しないかを確認する必要がある。

これに対して著作権は創作した時点で自動的に発生し、登録は発生要件ではない。

著作権登録制度が存在するものの全ての著作権が登録されるわけでもなく、検索だけでは著作権の有無を確認することはできない。

そのため、事業に重要な著作物については創作の過程まで遡って有効な著作権の有無を確認する必要がある。

ライセンス契約は、対象範囲や地域は契約で規定されているため契約内容を確認する必要がある。

COC条項が存在することもあり、M&A後もライセンスを維持できるかどうかは必須の確認事項である。

●第三者の権利の侵害の有無

繰返し明記しているとおり、中小企業は大企業に比べてコンプライアンス意識が薄いため、特に違法という認識がないまま軽い気持ちで第三者の知的財産権等を無断で使用しているケースに遭遇することもある。

例えば、対象企業の主力商品名について第三者が商標権を取得していたため、商標権侵害を理由に商標の使用差し止めを求められた事案も見られた。

M&A後に主力商品名を使用できないことになると、当初想定していたM&Aの目的を達成できない場合も出てくる。

このように、知的財産権を侵害していることによって、M&A後に当初想定していたとおりには事業を進められないことにもなり得るし、さらに侵害している知的財産権の内容よっては第三者から知的財産権等の侵害を理由に極めて高額の損害賠償請求がなされるリスクも否定できない。

このような事態が生じればM&A自体が失敗するおそれが高いため、対象会社が第三者の知的財産権等を侵害していないかも慎重に確認する必要がある。

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