スモールPMIの「進め方」の概要
スモールPMIの「進め方」の概要は以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。
【スモールPMIの進め方の概要】
- スモールPMIの全体像
- スモールPMIのステップ
- スモールPMI推進体制
- アクションプランの作成
M&AのPMIの全体像
●M&Aの形式に応じたPMIの手法
M&A後の譲受企業(A社)と譲渡企業(B社)の体制について整理すると、中小企業のM&Aでは、おおむね以下の4とおりに整理できる。
- A社社長個人によるB社買収
- A社によるB社の子会社化
- 個人によるB社買収
- A社によるB社吸収
上記①~④は、いずれも買い取った譲渡企業(B社)の経営者が続投するか退任するかは案件によって異なる。
経営者が続投する場合はオーナー(株主)が変わるだけであるが、退任する場合は、B社社長の業務を、買収企業(A社)の社長あるいは従業員へ引き継がなければならない。
中小企業は社長が多くの業務や役割を担っている場合が多いため、この引継ぎが、PMIおよび買収後の経営に非常に重要になる。
●PMIプロセスの位置づけ
以下は、PMIの全体像を示す。こちらのとおり、PMIはM&Aプロセスと並行して検討を開始し、M&A成立後の集中実施期を経て取り組む継続的な活動である。
<M&Aプロセス>
トップ面談前
↓
トップ面談
↓
基本合意締結
↓
デューデリジェンス
↓
最終契約締結
↓
クロージング
<PMIプロセス>
集中実施期
↓
それ以降
一般的にPMIは「集中実施期」の、M&A成立後初日から一定期間に集中的に行われる統合作業を指すことが多い。
しかし中小企業の場合、買収後に統合せず、譲渡企業をそのまま運営するケースも少なくない。
統合する場合でも、中小企業は事業面、財務面などでさまざまな課題があり、統合前に経営改善の取組が必要になるケースが多くある。
つまり、大企業と中小企業では、PMIで実施する内容は大きく異なるのである。
そのため、大企業のPMIに合わせるのではなく、中小企業各社の実状に合わせたPMIを実施することが重要であるといえる。
スモールPMIのステップ
●PMIのステップ
【M&A成立前】
- M&A初期検討:①M&Aの目的の明確化、成功の定義
- プレPMI(M&A成立前の取組):②PMIを意識した事前準備・デューデリジェンス
【M&A成立後】
- PMI(集中実施期):
- PMIの推進体制の構築
- PMIの取組の実行
・デューデリジェンス(未実施の場合)
・社長の業務引継ぎ(社長退任の場合)
・経営改善
・体制構築(経営統合、信頼関係構築、業務統合)
- ポストPMI(それ以降):⑤シナジー効果を創出、成長戦略の実行
●M&A初期検討
M&A初期で、「M&Aで何を目指すのか(目的)」、「どのような姿になっていたいのか(ビジョン)」、「何が実現できれば、M&Aが成功したと言えるのか(目標)」を言語化し、それらの実現に向けて期待されるシナジー効果を得られるのかなど、M&A戦略を策定しておく。
●プレPMI(M&A成立前の取組)
基本合意締結後にデューデリジェンスを通じて譲渡側に関する情報を可能な限り取得する。
M&Aは社内に対しても極秘で進めるので従業員からのヒアリングが難しいが、財務や法務は会計帳簿や契約関連の資料である程度確認できる。
しかし、事業面は主に社長へのヒアリングしかできないため、事業面での課題を抽出することが困難である。
また、譲渡企業の社長は、会社をなるべく高く売却したいため、自社の問題点を隠そうとするケースも少なからずある。
そのためヒアリングでは、可能な限り正確な情報を収集するようにする。
●PMI(集中実施期)
まずはPMIの推進体制の構築である。
スモールM&Aでは、譲受側・譲渡側ともに人員に余裕がない中で、通常業務に加えてPMIの取組を実施することになるため、PMI推進に求められる役割を整理し、譲受側・譲渡側の適切な人材で役割分担しながら進める必要がある。
そしてPMIの取組の実行であるが、スモールM&Aではデューデリジェンスを実施しないケースも多いため、その場合は簡易的な各種デューデリジェンスを行う。
デューデリジェンス未実施ということは、譲渡企業の現状把握ができていないということであり、譲渡企業をよく知らない中でPMIを実施してしまうと、さまざまなミスリードや問題点の漏れが発生し、譲渡企業をうまく運営することはできない。
そして譲渡企業の社長が退任する場合は、社長の業務の引継ぎを行う。
中小企業の場合、社長の持つノウハウやスキルが事業運営に不可欠な場合も多いため、社長の引継ぎは重要な業務である。
続いて経営改善である。
中小企業の場合、非効率や無駄な業務など、内部にさまざまな問題点を抱えているケースがあるので、問題点を1つ1つ丁寧に改善し、効率的・効果的な組織運営を実現できるようにする。
これらを実施した上で、譲渡企業の体制構築を行う。
具体的には、経営統合・信頼関係構築・業務統合です。新たな経営体制を構築し、譲渡企業の各従業員と信頼関係を構築して全体のベクトルを合わせて、その上で業務統合を行っていく。
●ポストPMI(それ以降)
さらにポストPMIでは、シナジー効果の創出などの、成長戦略を実行していく。
スモールPMI推進体制
●PMI推進体制の検討方針
譲受側・譲渡側ともに限られた人員で円滑に推進するためには、PMI推進チームを組成し、役割を定めて取り組むことが望ましい。
PMIの推進において必要な役割を整理すると、主に「重要意思決定」「企画・推進」「実務作業」の3つが想定され、それぞれ適任な人材で役割分担することが望ましいが、企業の規模や状況によっては、役割を兼務させることも必要になるであろう。
●スモールPMIにおける推進体制の特徴
スモールPMIにおける推進体制は、譲受側・譲渡側ともに人員に余裕がないことが多いため、譲受側の経営者や役員等が、重要意思決定やPMIの企画・推進等の複数の役割を兼任することが一般的である。
また、通常業務に加えてPMIの取組を実施することになり、各従業員の負担は大きくなるため、事前に体制を構築して、PMIのアクションプランを整えてから、計画的に取り組むことが重要である。
小規模案件では、譲受側・譲渡側ともに特に人員に余裕がないことが多く、基本的に譲受側経営者がほぼすべてのPMIの取組に対応せざるを得ない。
そのため、譲渡側のPMIと譲受側の経営等の両立がポイントになる。そして、退任予定の譲渡側経営者に協力や助言をもらいながら、譲受側・譲渡側の実務作業者に指示・監督を行う。
なお、中規模・大規模案件では、企画・推進が、譲渡側・譲受側の役員が担い、実際の実務作業者に対しては、譲受側の役員が直接指示・監督を行う。
アクションプランの作成
●PMIの取組の具体的アクションの設計
各種デューデリジェンスを実施し、事業内容や実態PL/BSを確認したら、PMI推進体制を構築し、その後に、具体的なPMIを実施するためのアクションの設計を行う。
PMIへの取組は、大まかには「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」であるが、これでは具体的なイメージが湧かない。
PMIには、買収後の手続きや事務作業、新経営体制の構築、組織体制の見直しなど、さまざまな業務が発生する。また、単なる「作業」だけではなく、戦略構築やシナジー創出など「思考」の業務も多くある。さらに、単独で実施するのではなく、PMI推進のチームで取り組む必要がある。
そのため業務が曖昧であれば、さまざまなミスや漏れが発生して非効率になり、無駄に時間と労力をかけてしまうことになる。
したがって、実施内容を事前に詳細に吟味して設計し、各項目で担当者と実施期間を決めて、それらをTo Doリストのように「アクションプラン」として整理して見える化すれば、PMIの全体と詳細内容をチームで共有して取り組むことができる。
そしてこのアクションプランを使って「重要意思決定者」「企画・推進者」「実務作業者」のチームで共有して進捗管理を行えば、効率的・効果的に進めることができる。