スモールPMIの「取組」の概要
スモールPMIの「取組」の概要は以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。
【スモールPMIの取組の概要】
- 取組の概要(基礎編)
- 譲渡側経営者への対応
- 譲渡側従業員への対応
- 取引先への対応
- 取引先以外への外部関係者への対応
- 事業の円滑な引継ぎ
取組の概要(基礎編)
●M&A成立後100日~1年程度の集中実施期の取組み
M&A成立前後は、譲受企業と譲渡企業が一体となってM&Aの目的を実現するための基礎固めの時期である。
この時期は双方の相互理解を進めて信頼関係を構築しながら、M&A成立前の検討段階では把握できなかった実務面での問題や課題に一つ一つ対応することになる。
M&A成立後100日~1年程度までの期間に集中して行うべき取り組みの概要は、大きく①経営統合、②信頼関係の構築、③業務統合のための取組みに分類できる。
●経営統合(経営の方向性の確立)の取組み
社内外の関係者との間で安心感を醸成し信頼関係を構築するためには、まず、譲受側がM&Aを通じて達成したいことを経営の方向性(目的、目標、行動基準等)として言語化し伝えることが大切である。
そのためにはトップ面談などM&A成立前の段階で、譲渡側のこれまでの経営方針などを把握し、新たな経営の方向性との差異を特定しておく必要がある。
そして、新しい経営の方向性を伝える際は、譲渡側のこれまでの経営を否定する内容にならないように気を配り、従業員に不安を与えないような伝え方を工夫するなどの配慮が必要となる。
譲渡側経営者への対応
●譲渡側経営者の協力を得るには信頼関係の構築が大切
譲渡企業と譲受企業の経営者の間で協力関係を築くには、お互いの信頼関係がベースになる。
譲受企業の経営者は譲渡企業の経営者の考え方やこれまでの経営方針に理解を示したうえで、M&Aに対する考え方を明確に伝える必要がある。
トップ面談など対面での打合せはお互いの考え方を知る貴重な機会になるが、その際、譲受側の傾聴姿勢や譲渡企業の過去の経営を否定しない態度などで、譲渡側に敬意をもって接していることが伝わると、その後の信頼関係が構築しやすくなる。
●M&A後の処遇を明確にしてトラブルを防止する
M&A成立後、譲渡側の経営者が残る場合は、その役割や在籍期間等についてM&A成立前に概ね合意しておくことが、その後のトラブル防止に繋がる。
なお、在籍期間の見積りが難しい場合は、例えば半年更新の契約にして、事後的に柔軟に対応できるようにするなどの工夫も考えられる。
譲渡側従業員への対応
●譲渡側従業員の不安や不信感を払拭し、協力を得られる関係性を構築する
譲渡企業の従業員は、M&Aにより自分自身の働き方に影響が出ることに対して不安や不信感を抱く可能性があるため、それらを払拭し、M&Aについての納得感や共感を得て、従業員からの協力を得やすくする必要がある。
●キーパーソンへの情報開示、全従業員への説明会、個別面談を組合わせる
M&A成立前に中途半端な噂が広まると、従業員に不安が広がる可能性があるため、M&Aに関する情報は、M&A成立後に全従業員に対して、遅滞なく、同時に、等しく、正確に伝えるのが基本になる。
しかし、キーパーソンに対しては、M&A後の協力を得やすくするため、基本合意後に個別に情報開示を行うケースがある。
その場合は個別に情報を開示する理由(キーパーソンの協力がM&Aの成功のために不可欠であることなど)を丁寧に説明し、同時に情報の取り扱いに十分留意するように伝える。
そして、全従業員への説明が終わった後は、個別面談を実施し、一人ひとりの理解度に応じた説明を行うとともに、不安やそれぞれの思いに耳を傾ける寄り添った姿勢で接することが、その後の不安を抑え、混乱の防止に繋がる。
また、例えば、旧式のオフィス機器の入れ替え、従業員一人一人にメールアドレスを付与する、従業員が使用するトイレを改修する、賃金引上げなどの処遇改善を行うなど、即効性のある就労環境改善策を早期に実施することができれば、譲渡企業の従業員にM&Aによる具体的なメリットを実感してもらうことができる。
取引先への対応
●取引先の重要度や関係性を踏まえ対応する
譲渡企業の取引先との関係性を継続するため、取引先に対してM&Aの事実を伝える時期や方法については慎重に検討する必要がある。基本的には最終合意契約締結後に伝えますが、その場合も、取引先の重要度や関係性に応じた対応が必要となり、継続する取引については、取引条件等を予め正確に把握しておく必要がある。
●譲渡側の経営者と相談し、訪問計画を立てる
主要取引先への事前説明の実施方法(時期、訪問者、説明内容等)について、譲渡企業の経営者と協議し訪問計画を立てる。
特に事業継続に重要な取引先等の場合、M&A成立前(基本合意~クロージング前)に訪問し説明を行うべきと判断する場合もあり、その場合は情報流出リスクや信用不安を招かないように慎重な対応が必要である。
また、主要取引先に対して行う説明の内容としては以下のようなものがあり、M&Aのメリットが何らかの形で取引先にも及ぶことが説明できれば、取引先の理解も得やすくなる。
- M&Aを検討している背景・目的
- 現在の検討状況とスケジュール
- M&A実施後に想定する取引への影響
- 取引先への協力依頼
- 取引先からの依頼事項等の確認
また、主要取引先以外の取引先に対しては、第三者から噂として情報が耳に入る前に、M&A成立後速やかに一斉に挨拶文を送るなどして、正確な情報を伝え、取引先の不安を払拭し混乱の防止に努める。
取引先以外への外部関係者への対応
●信頼関係の維持・構築がポイント
地域において長年経営を続けてきた中小企業には、取引先以外にも多様なステークホルダー(直接的・間接的な影響を受ける利害関係者)が存在する。
外部関係者にM&Aの取り組みについて伝えるタイミングは、情報漏洩リスクを考えて最終合意締結後とするのが一般的である。
しかし譲渡企業の経営者や従業員へのヒアリング等を通じて、事業を継続する上で特に関係性の維持・継続が必要な先が明らかになった場合には、個別の関係性を踏まえて適切な対応を行う必要がある。
●金融機関への情報開示のタイミング
中小企業が金融機関から融資を受ける際、約8割のケースで経営者個人が会社の連帯保証人となっている(2022年度「経営者保証に関するガイドライン」周知・普及事業報告書より)。
2014年に「経営者保証ガイドライン」が適用開始となり、経営者保証なしで融資を受けられるケースも増えつつあるが、未だ譲渡企業の借入金の多くは経営者個人が連帯保証人となっているため、譲受側の経営者は予め譲渡企業側の経営者及び金融機関と連帯保証の解除について相談しておく必要がある。
●会計事務所と相談し税金面について整理しておく
譲渡企業および譲受企業とも予め課税関係を整理して、納税が発生する場合は納付の時期と概算の税額を把握しておく必要がある。
株式譲渡の場合の株主に対する株式譲渡課税、役員が退職する場合の退職所得課税、不動産の譲渡が発生する場合の登録免許税や不動産取得税など、さまざまな税金が発生する可能性があるので、個人株主、法人株主、役員、譲渡企業、譲受企業など、当事者の類型ごとに発生する税金について、予め顧問税理士等に相談し、シミュレーションしてもらうと良いであろう。
事業の円滑な引継ぎ
●円滑な事業の引継ぎのためにも大切なデューデリジェンス
引き継いだ事業を安定的に運営するためには、譲渡企業側の業務運営について、デューデリジェンスの段階でできるだけ詳細に現状把握をして、M&A成立後に改善すべき点を明確化しておく必要がある。
そしてM&A成立後は、譲渡企業の経営者や従業員へのヒアリング、帳票類のチェック等を通じて更に詳細な確認を行い、優先順位の高い改善項目から改善に着手する。
一方で、M&A成立前のデューデリジェンスでは、譲渡企業の経営者は自分に不利になる情報について十分に開示しないケースもあり、また従業員への突っ込んだヒアリングが難しいケースや時間的な制約があるケースなども考えられるため、一部検知できない情報がある前提で、その後の手続きを進める必要がある。
●属人化した業務に注意しながら、現場を確認する
譲渡企業の経営者や一部従業員のみに属人化している業務には注意が必要である。
また、業務に関する規定や帳票等が存在しないことや実態と乖離していることもあるので、M&A成立後は実際に業務を担当する従業員に詳細なヒアリングを行い、業務日報の確認や現場で一緒に業務を遂行するなどして、業務内容や業務手順を確認し、可能な限り見える化させることが望ましい。
そして改善すべき点については、優先順位を付けて順次対応する。
このうち特に重要なもの(法的リスク、事業停止リスクが高いもの)については、譲渡企業側の経営者や支援機関の協力を得て速やかに対応する必要がある。