スモールPMIの「買収後の諸手続き、事務作業」の概要
スモールPMIの「買収後の諸手続き、事務作業」の概要は以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。
【スモールPMIの買収後の諸手続き、事務作業の概要】
- 事業譲渡・株式譲渡、各々での諸手続き一覧
- 社名変更の場合の手続き
- 許認可
- 登記(代表取締役変更登記)
- 銀行手続き
- 契約書見直し
事業譲渡・株式譲渡、各々での諸手続き一覧
●株式譲渡の手続き
- 定款変更(必要時のみ)
- 登記
- 代表印の届出
- 連帯保証・物上保証の解除
- 関係各所の代表変更
- 許認可の引継ぎ
- 取引先への挨拶状
株式譲渡の場合、スモールM&Aでは株主とともに代表者が変更となる場合がほとんどである。そのため、金融機関、取引先、公的機関などすべてに対して代表者の変更手続きが必要となる。
定款変更については、必須ではないが、現状の内容から見直しが必要な項目があれば、登記手続きを合わせて司法書士などに依頼すると手続きもスムーズに進む。
その他、許認可の引継ぎや金融機関の借入れに対する連帯保証や担保設定の解除については、M&Aの成約を左右する重要なポイントになるので、M&Aの成約前に引継ぎにあたって問題がないかを確認しておいた方がよい。
特に、金融機関に対しては基本合意契約後や最終契約後すぐに相談して、借入れの引継ぎについての相談を行うことを勧める。
●事業譲渡の手続き
事業譲渡では、当該事業の主体が譲渡会社から譲受会社に変更となるので、取引先、従業員ともに全ての契約を新たに締結しなくてはならず、速やかな手続きが必要となる。
また、許認可については、一部の例外を除いて新規で取得する必要があるので、こちらもM&Aの成約前に、引継ぎにあたって問題がないか、どの程度の期間を要するかなどを確認し、スムーズな引継ぎができるよう前もって準備を進める。
社名変更の場合の手続き
●社名変更の注意点
社名変更にあたっての手続きでは、定款変更は必須ではなかったが、社名(商号)の変更には定款変更が必ず必要となる。
また、定款変更には株主総会の特別決議が必要となる。
その他、社名を変更すると看板やHP、カタログや封筒などの変更も発生し、その分コストをかかるので、変更時のメリット・デメリットを検討したうえで判断する。
手続き面について、M&Aの最終契約の際にも株主総会を行うので、併せて実施するのが通例である。
また、取引先など関係各所への届出や通知も必要なことから、既に新商号への変更が決まっている場合は、手続きの内容を確認して最終契約と併せて実施すると手間が省ける。
よくあるケースは、M&Aの実行とともに特例有限会社から株式会社へ変更する場合である。
譲受企業が譲渡企業に役員を派遣して取締役会の設置を希望する場合に、特例有限会社は取締役会の設置ができないため株式会社への変更が必要になるが、この場合も商号変更が必要になる。
許認可
●許認可の引継ぎのポイント
代表者が管理者を兼務している場合など、それぞれの事業で取得している許認可における管理者等の変更が必要となることがある。ここでは、特に注意が必要な建設業の許可について確認する。
一般的に、M&Aの実行後に代表者(常任の管理責任者)が変更となる場合は、変更届の提出が必要となり、変更の事実があった時から14日以内の届出が必要となる。
ただし、管理者の変更がなく、代表者を含め役員の変更届のみである場合は、30日以内の届出となっている。
さらに、建設業では事業を引き継ぐ管理者は、一定の経営業務の管理責任者の経験が求められる。
なお、建設業以外の代表者変更の期限は、許認可毎に異なりますので注意が必要である。
特にスモールM&Aでは、飲食業のM&Aも活発に行われているが、法人の株式を譲受けた場合は営業許可の承継が可能である。
しかし、個人事業の場合は事業譲渡での承継となり、飲食店舗を譲り受けた法人・個人は新規で営業許可を取得しなければならないので注意が必要である。
登記(代表取締役変更登記)
●登記事項の変更登記
代表取締役の変更を含めて、株主総会の決議において、登記事項の変更があった場合は2週間以内に本店所在地での登記が必要となる。M&Aにおいては、通常は当日に登記を行う。
ここでは、譲受時に必要となる代表取締役の変更登記を、中小企業で多い取締役会非設置会社で代表取締役の選定方法が「株主総会決議」である場合を例にして確認する。
手続きの流れは、株主総会普通決議により辞任する代表取締役の承認と新たに就任する代表取締役を選定する。
以下の書類を、所轄の法務局に申請して手続きが完了するが、通常は司法書士に依頼することがほとんどで、M&Aのクロージングに立ち合い、同日に登記申請が行われるように手配する。
【代表的な許可事業】
- 建設業許可:都道府県知事または国土交通大臣
- 飲食店営業許可:所轄の保健所長
- 労働者派遣事業許可:厚生労働大臣
- 運送事業経営許可:国土交通大臣
- 宅建業許可:都道府県知事または国土交通大臣
銀行手続き
代表取締役が変更になった場合、社名に変更がなくても名義変更の手続きが必要になる。
名義変更の手続きを行うには、代表取締役変更後の登記事項証明書が必要になるので、まずは「代表取締役変更登記」を行う必要がある。
登記申請から登録変更まで1週間程度はかかるため、早めに手続きを行うことが望ましい。そのうえで、銀行窓口に持参する書類と銀行窓口で記入するものは以下の通りである。
【銀行窓口に持参する書類】
- 銀行口座の通帳
- 銀行口座の届印
- 印鑑証明書(法人の代表取締役変更後のもの)
- 登記事項証明書(法人の代表取締役変更後のもの)
- 社判、ゴム判(必須ではありません)
- 窓口に来店する者の本人確認資料(運転免許証等)
【銀行窓口で記入する書類】
- 変更届
- 印鑑票
- 取引目的等確認書
上記は代表的な書類例である。金融機関によっては、上記以外に必要なものがある場合もあるので、事前に確認してから手続きを行うようにする。
契約書見直し
●COC条項の確認
M&Aにおいて契約書上で重要な論点がCOC条項です。対象会社が取引先との契約において、株主や代表者の変更について、契約相手への事前の通知もしくは承諾を得る必要がある、もしくは変更が該当取引契約の解除事由、期限の利益喪失事由に規定されている場合がある。
もし重要な取引先から契約の解除を申し入れされた場合、元々のM&Aの目的を達成できなくなる恐れもあるため、COC条項が付されている契約については、株主変更後も契約の継続の確約を得ることをM&Aのクロージング条件(最終譲渡契約書において、譲受にあたり重要な条件を指定したもので、条件を満たすことではじめてクロージング(取引完了)となるもの)に設定するのが望ましいと考えられる。
そのため、重要な取引先との契約書については、基本合意後の企業調査段階で確認した方が良い。
●契約書の見直し
中小企業においては、不利な内容で契約を締結していたり、契約書がなく慣習的に条件が決まっているような場合が多くある。
その場合は、M&Aの実行から期間が空くと条件変更の申し入れの話を切り出しにくくなるため、早めに対応した方が良い。
確認した契約内容が、譲渡企業にとって不利な内容であれば契約内容の見直しを、以下の点に留意しながら交渉してみる。
【契約交渉時の留意点】
- 取引先の考え方や業績、キーマンなどの情報をできる限り入手する
- 自社が提示する条件には、必ず根拠を提示するように準備する
- 取引先との関係性を損なわないように配慮しながらコミュニケーションを取る