スモールPMIの「経営統合」の概要
スモールPMIの「経営統合」の概要は以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。
【スモールPMIの経営統合の概要】
- 取組の概要(発展編)
- 成長型M&Aにおける戦略
- 経営統合① 経営の方向性の確立
- 経営統合② 経営戦略・戦術とアクションプラン構築
- 経営統合③ 事業計画の作成
- 経営統合④ PDCAのしくみ構築
取組の概要(発展編)
●発展編の概要
スモールPMI実践の基礎編は事業の円滑な引継ぎが主体であったが、発展編では、事業統合によるシナジー効果の実現や、管理統合による間接部門や管理業務の効率化など、M&Aを契機として譲受側・譲渡側が一体となって成長するために、経営・事業における各機能をいかに統合するかを検討していく。
発展編は、大きく経営統合と業務統合に分かれ、さらに業務統合は、事業機能と管理機能に分類される。
●経営統合
経営統合では、譲受側・譲渡側が一体となって経営改善や成長戦略を実行するための基盤として、経営体制や経営の仕組み、経営の方向性を整備します。経営の方向性とは、譲渡企業のビジネスデューデリジェンスの結果を踏まえ、買収後のビジョンや経営戦略を構築することである。
●業務統合(事業機能)
業務統合の事業機能は、大きく2ステップに分かれる。
まずは「課題解決と成長戦略構築」である。
ビジネスデューデリジェンスのSWOT分析で譲渡企業の問題点と強みを抽出した。
まずは問題点ですが、大手企業同士のM&Aと違い、スモールM&Aの譲渡企業には多くの問題点が存在しているケースがあり、まずはこれらの問題点を解決する必要がある。
また、強みを活かしてさらに売上・利益を伸ばすための成長戦略を構築していく。
譲渡企業の課題を解決した後は「シナジー効果等の実現による収益力の向上」を行う。
シナジーとは相乗効果のことで、譲渡企業と譲受企業が互いに作用し合って効果や機能を高めることである。シナジーには、売上シナジー、原価シナジー、販管費シナジーがある。
●業務統合(管理機能)
業務統合の管理機能については、人事・労務、会計・財務、法務など、主に間接業務の統合などを行うことである。
またITシステムを統合したり新たに導入したりするなどで効率化を図り、生産性を高めることも重要になる。
成長型M&Aにおける戦略
●M&A実施前に検討すべきM&A戦略
成長型M&Aでは、まずは自社の成長の方向性を検討し、その実現に向けて有効なM&A戦略を選択することになる。
成長の方向性の検討においては、一般的な製品・市場マトリクス(アンゾフのマトリクス)のフレームワークに加え、垂直統合を加えた5つの選択肢が考えられる。
【アンゾフのマトリクス】
①市場浸透戦略(既存製品×既存市場)
②新市場開拓戦略(既存製品×新規市場)
③新製品開発戦略(新規製品×既存市場)
④多角化戦略(新規製品×新規市場)
⑤垂直統合
譲受企業が、これら5つのいずれかの戦略を決定した上で、M&Aを実施していく。
なお、譲渡企業を買収後に単独で運営する場合は、ビジネスデューデリジェンスで把握した譲渡企業の内部環境や強みを踏まえ、右図①~④のいずれかの戦略を選択して実施する。
●各々の戦略
「①市場浸透戦略」は、既存製品を既存市場向けに販売することである。
例えば、顧客に自社の強みが伝わっていない場合は、その差別化要因を徹底して発信して、既存顧客向けのブランド力を向上させる必要がある。M&Aの戦略では、競合企業の買収に当たる。
「②新市場開拓戦略」は、既存製品を新たな市場向けに販売することである。
新市場とは、異なる年齢層や新地域の他、新たな用途や時間帯(夜間)などがある。M&Aの戦略では、自社が参入できていない地域や顧客セグメントに販路を持つ企業の買収に当たる。
「③新製品開発戦略」は、新製品を開発する戦略で、M&Aの戦略では、異なる製品群を扱う同業他社の買収や、譲渡側のブランド獲得、技術・特許の取得を目的とした買収に当たる。
「④多角化戦略」は、新製品を新市場向けに販売する戦略で、M&Aの戦略では、自社と異なる事業分野の製品や市場を持つ企業の買収である。
「⑤垂直統合」は、サプライチェーンの川上や川下に向かって事業を拡大することを目的としたM&Aで、既存事業の仕入先や販売先の買収になる。
経営統合① 経営の方向性の確立
●目的・意義
M&Aを行うには、まずはM&Aの目的や意義を明確にすることが重要です。例えば、既存事業の拡大、販路拡大、製品力強化、新事業創出、などがあります。こうした目的を明確にすることで、ビジョン(経営目標)を全社に示すことができ、さらにその実現に向けた道筋を具体化することで、M&Aの目的やシナジー効果の実現可能性を向上させるとともに、従業員のモチベーションの維持・向上を図ることができます。
●経営体系のピラミッド
経営の体系を示したピラミッドは、上から順番に構築していく。
最上位に位置するのが「経営理念」であり、それ以降「ビジョン」「経営戦略」「戦術」「アクションプラン」「事業計画」と続く。
経営理念は、経営者が考える会社の存在意義や価値観のことで、長年引き継がれたものが多く、浸透すれば団結力は高まる。
経営には経営理念が必須だと言われており、経営理念が浸透すると団結力は強固になりますが、従業員への浸透が難しく、ほとんどの会社員は自社の経営理念を把握していないため、形骸化しているケースが多いのが実状である。
そのため実務では、まずは「ビジョン」を最優先に構築することをお勧めする。
●会社と従業員のベクトルを一致させる「ビジョン」
ビジョンとは、社長を始め会社の全従業員が目指すべきゴールである。
そして従業員一人ひとりの力を最大に活かすには、各々の従業員と会社のベクトルを合わせる必要がある。
そのためには会社と各従業員が共有できるゴールが必要になり、それがビジョンである。
しかし「日本の中小企業を活性化させる」や「従業員が幸せになる会社」というような、どの企業にも当てはまる曖昧な内容だと、従業員が目指すべきゴールにならず、従業員のモチベーションは向上しない。
会社のベクトルを一致させられるような効果的なビジョンを描くには、それに必要な要素がある。
ビジョンに必要な要素と、ビジョンの事例を、以下のとおり整理する。
【ビジョンに必要な要素】
- 従業員が具体的に頭にイメージできること
- ビジョンが会社特有の内容であること
- ビジョンが個々の従業員の業務と結びつく内容であること
経営統合② 経営戦略・戦術とアクションプラン構築
●戦略・戦術とアクションプラン
ビジョンを明確にした後は、経営戦略と戦術を構築し、具体的なアクションプランに落とし込む。
経営戦略とは、目標とするゴールに到達(ビジョンを達成)するための方針や方向性、道筋のことである。
ゴールに到達するためには、さまざまな方針を合わせて実施する必要があり、それぞれの方針が各々の戦略になる。その戦略に合わせた具体的な施策が戦術になる。
現状からビジョン(ゴール)に到達するためにはいくつかの戦略が必要であり、その戦略を実現するために、具体的施策を実施する必要がある、ということである。
そして戦略・戦術を行動計画に落とし込んだものがアクションプランである。
アクションプランは、責任者、実施者、行動計画を整理していく。
活用方法は、月1回の経営会議で振り返りを行い、各々の項目の実績の欄に、計画が実施されれば「〇」、未実施であれば「×」、不十分であれば「△」を記入する。
こうしてアクションプランの内容を会社全体で共有し、振り返りを行って、確実に実施するように努める。
●経営のアクションプランは、PMI全体のものと別に作成する
アクションプランについては、PMI全体のものについて作成するが、そのアクションプランはPMIの手続きや事務作業すべてが含まれたものである。
一方で、本項で紹介しているアクションプランは、課題解決や成長戦略といった「経営」に特化したものである。
そのため、前述のPMI全体のアクションプランとは別に作成して管理することを勧める。
経営統合③ 事業計画の作成
●事業計画とは、将来のPL
戦略と戦術、アクションプランが完成したら、次は将来のPLである事業計画書を作成する。
まず売上高は、顧客別や商品別、あるいは事業別に分解して作成することで、計画の正確性を高める。
次に原価であるが、事業内容や決算方法に大きな変化がない限り、原価率は大きく変動しないため、過去3年分の原価率の実績を踏まえて設定する。
製造業で原価管理を実施している場合は、材料費・労務費・外注費・経費の各々の実績を踏まえて算出する。なお、原価率が大きく変動している場合、変動する要因をつきとめた上で見込みの原価率を設定する。
続いて販管費は、同様に過去の実績を踏まえ、今後の施策を加味して算出する。
そして販管費は、実現可能で実際に実行する予定の経費削減があれば、その施策を明記した上で、削減後の経費を設定する。
これは、売上施策は実際に売上増加が実現するとは限らないが、経費削減の場合、実行すれば確実に削減できるため確実性が高いからである。
その他、減価償却費は、顧問税理士から数値を入手して作成する。
●事業計画の手順
- 過去3~5年分のPLを整理する
- 顧客別(商品別)売上計画で作成した売上見込みを明記する
- 過去3~5年の実績から、原価率を設定する
- 販管費について、固定費か変動費かの区別を行う
- 販管費の各勘定科目について、今後の状況(備考)を明記する
- 今期分の現在までの実績を明記する
- 4,5,6を踏まえ、計画0期の販管費と営業利益を作成する
- 計画1~3期の販管費と営業利益の見込を作成する
- 営業外損益(特に支払利息)を算出し、経常利益を導く
経営統合④ PDCAのしくみ構築
●PDCAとは
PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善行動)の頭文字を取ったもので、経営状況を振り返り、問題があれば改善する、ということを繰り返すものである。
つまり、日々発生する様々な課題をタイムリーに改善し、価値向上や生産性向上を図っていくものである。これは経営だけでなく、工場の製造現場や、個人の成長でも使われる。
●経営のPDCAサイクル
経営でPDCAを回す場合、まずは計画や施策を構築する。
そして期中は月に1度、試算表(月次PL、BS)で毎月の収益状況を把握して、もし数値の悪化や前年同月比で減少が見られる場合、なぜ悪化したか、前年を下回ったのかの原因を究明するために、現場で発生している現状を把握し、現場の中にある数値悪化の原因を究明する。
その上で、改善策を構築し、即座に改善施策を実行に移していく。
これを繰り返すことで、より良い経営が実現し、業績が上向いていく。
つまり、業績の悪化の原因は現場にあるため、「問題点(数値)の発見→原因(現場)の究明→改善行動(現場)」を繰り返せば業績は良くなるはずであり、より良い経営を行っていくにはPDCAを回すことが大切なのである。
●中小企業の多くは「試算表」未作成
経営のPDCAを回すには、試算表は必須であり、経営者にとって、毎月の業績をチェックすること必要不可欠である。
経営者は毎月の経営会議で、試算表を見てPDCAを回していき、タイムリーに現場の問題点を改善しながら業績向上を図っていくことが重要である。
しかしながら、試算表を作成しない中小企業も多いのが現状である。そのため、もし事業を運営する中で問題があり、それが原因で業績が悪化しても、期中でその問題を振り返ることが難しい。 その結果、問題を抱えたまま事業を運営し続けることになり、それが積み重なって多くの問題を抱えるようになるため、事業価値の低下や赤字額の増加につながっていくのである。