PMIはM&A成功のための最も重要なプロセス

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PMIは、M&A成功のための最も重要なプロセス

PMIとは何か

PMIとは、「Post Merger Integration」の頭文字を取ったものだ。「Post」は「後」、「Merger」は「合併」、「Integraton」は「統合」を意味する。直訳すると「合併後の統合プロセス」であり、つまりPMIとは、M&A(合併・買収)後の統合プロセスを指す。

なお、中小企業庁が発行した「中小PMIガイドライン」では、「PMIとは、主にM&A成立後に行われる統合作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なものである。」と示されている。

現在のM&Aでは、M&Aの「成立」までが重要視されている。

しかし本来、譲受側にとっては、M&Aの目的として当初に期待された効果を実現できるかどうかが重要であるため、M&Aの成立はスタートに過ぎず、PMIの取組みが目的達成のための最も重要なプロセスであるといえる。

PMIの取組みは「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」

PMIの取組みのステップについては、さまざまな分類方法が主張されているが、中小企業庁が発表した「中小PMIガイドライン」では「経営統合」、「信頼関係構築」、「業務統合」に分類されている。

「経営統合」とは、譲渡側と譲受側の経営を統合することである。従来まで異なっていた経営方針や経営体制などの統合を指す。

しかし、スモールM&Aで多く用いられる株式譲渡では、譲渡側も譲受側も残ることになるため、多くの場合は厳密に統合される訳ではない。

ただ、双方が一体となって成長していくためには、経営や業務等の面で一定程度のすり合わせが必要になるため、企業や組織が完全に合体する訳ではないが、このような場合も「統合」と称している。

次に「信頼関係構築」は、譲渡側と譲受側の社員同士の信頼関係を構築することである。ビジョンの浸透や、取引先との関係も含む。

最後に「業務統合」は、事業の運営方法や、管理・制度に関する統合を目指すことである。

なぜスモールM&AでPMIが必要となるのか

譲受側(買手)の心配事項、譲渡側(売手)の重視事項

中小企業白書(2021年)によると、譲受側等の心配事項というのは、譲受側は、買収後に期待するシナジー効果が得られるか、円滑な組織運営が行えるかどうかであり、それを心配する声が多くなっている。

これらはM&Aプロセスにおいて、後述するデューデリジェンスによって、ある程度解決は可能である。

ただし、これらデューデリジェンスは、特に事業内容を調査するビジネスデューデリジェンスでは、専門家の力量によって大きく左右されてしまう。

また、デューデリジェンスで得られる情報は限られるため、すべてを正確に把握することは困難である。そのため、M&A後のPMIを通じた円滑な統合と運営が重要になる。

一方、譲渡側は、売却価格の他、従業員の継続雇用、事業の将来性、取引先との関係維持を重視する声が多くなっており、これらもPMIの取組みが大きな影響を与える。

M&Aの満足度が期待を下回った理由

また中小企業白書(2021年)によると、M&Aの満足度が期待を下回った主な理由は、最も多いのが「相乗効果が出なかった」であり、これは譲受側と譲渡側の統合がうまく機能しなかったことが原因と考えられる。

また、「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」「相手先の従業員に不満があった」という理由も多く上がった。これらもPMIに大きく関わるものである。

このように、M&Aの当初の期待を満たし、M&Aそのものを成功に導くことができるかどうかは、PMIをしっかり取り組むかどうかいに大きく影響するといえる。

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なぜスモールM&Aは失敗が多いと言われるのか(大企業のM&AとスモールM&Aの違い)

スモールM&Aは成功が難しく、失敗するケースが多いと言われている。その理由は以下の3点であり、これらが大企業のM&Aとの違いと言える。

1. 譲渡企業の事業内容・決算書が毀損

2. デューデリジェンス未実施

3. M&AアドバイザーがM&A成立を最優先させる

スモールM&A失敗要因①:譲渡企業の事業内容・決算書が毀損

1つめは、譲渡企業の事業内容や決算書、契約関係などについて、毀損あるいは不備があるケースが多いこと、そしてそれらの状況が表面化していないことである。

例えば、事業面では、中小企業はさまざまな問題を抱えているケースが多いが、社長自身もその問題に気づいていない場合が多い。

また、決算書では、売掛金に不良債権、棚卸資産に死蔵在庫が含まれているケースが多いが、それが修正されておらず、簿価と実態が大きくかけ離れている場合も多いため、簿価で資産超過であっても、実態BSに修正したら債務超過になる企業が多く存在している。

これは、モラトリアム法案の影響で、経営改善に取り組まず、長年リスケ等の金融支援を受けながら事業を継続している中小企業が多いことが要因の1つと言える。

さらに、新型コロナによるゼロゼロ融資(売上が減った企業に実質無利子・無担保で融資する仕組み)で借入過多に陥り、返済ができずに窮地に陥っている企業が増えている。

スモールM&A失敗要因②:デューデリジェンス未実施

2つめは、スモールM&Aは売買単価が安いため、大企業のように財務・ビジネスといったデューデリジェンスを実施するケースが少ないことである。

スモールM&Aでもデューデリジェンスを実施する場合もあるが、極めて安価で簡易的なものなので、事業や決算書、契約関係を詳細かつ網羅的にチェックすることはできていない。

このように問題の多い譲渡企業をほぼノーチェックで買収するから、買収後にさまざまな問題が発覚するのである。

企業というのは、同じ業種でも、経営や業務の中身はまったく異なる。

例えば、経営手法や組織体制、戦略や戦術、管理体制や業務フロー、各作業方法、そして社員のスキルや商品自体の特徴も、各企業によってそれぞれ違っている。

特に中小企業の場合は、前述のとおりさまざまな問題を抱えていても顕在化しておらず、社長や社員でさえも自社の問題点が何なのかを理解していない。

また、体制やしくみが曖昧で、個々の業務や作業が属人的であり、社員が抜けるとルーチン業務も滞ってしまう。

そのため、買収後の統合だけでなく、単独での事業運営も難しくなる。

従って、スモールPMIでは、譲渡会社と譲受会社の「統合」の前に、譲渡企業の経営改善に取り組むことが重要になる。

つまり、スモールPMIの本質は、事業再生コンサルティングと言えるのである。

●スモールM&A失敗要因③:M&AアドバイザーがM&A成立を最優先させる

最後に3つめは、M&Aアドバイザーである仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)が、譲渡側、譲受側の都合に関わらず、M&A成立を最優先させることである。

なぜなら、M&Aの仲介会社やFAの報酬体系は「レーマン方式」と言って、取引金額に対して一定の割合を乗じて計算する方法であり、取引金額が高い程報酬も上がるからである。

また、報酬が初期段階や中間地点(基本合意書締結)で発生する場合もあるが、完全成功報酬を謳う企業の場合、成立しなければ報酬が得られないため、何としても成立させようとするのである。

特に近年、さまざまな士業がM&A事業に参入してきて競争が激化しているため、完全報酬型を謳ってクライアントを獲得するM&Aアドバイザーが増えている。

このようにM&Aアドバイザーは、何としてもM&Aを成立させるように誘導するので、譲渡企業や譲受企業の事業について関心を持たないのである。

例えば、中小企業の決算書には、売掛金に不良債権、棚卸資産に不良在庫が多く含まれている可能性があっても、M&Aアドバイザーはそれを指摘することは少ない。

また、収益が減少傾向であっても今年度の直近までの試算表で再評価することもない。

なぜなら企業価値が下がって値段が下がってしまうからである。

このようにスモールM&Aは、譲渡会社の事業や決算書に問題が多いにも関わらず、その隠れた問題が発見されることなく、価格重視で買収されるため、買収後にその問題が表面化する。

そしてM&Aアドバイザーはそもそもコンサルティングのスキルを持っていないので、それらの問題に対処できない訳である。

これが、スモールM&Aが失敗に終わってしまうメカニズムである。

なぜ、M&Aアドバイザーが大勢いて、PMIの専門家がほとんどいないのか

M&AアドバイザーとPMIコンサルティングの業務はまったく異なる

近年、M&Aの仲介やFAに、税理士や会計士、弁護士、中小企業診断士など、さまざまな士業が参入し、M&A専門家は増加しているが、PMIの専門家はほとんど存在していないのが現状である。

これはなぜかというと、もちろん市場が黎明期であることが大きな要因であるが、それだけではない。

M&AとPMIの業務は連動していて関連性は大きいにも関わらず、業務内容はまったく異なっているため、PMIに取り組む人材が欠如していることである。

具体的には、売買成立までのM&Aの業務は、基本的に手続き業務であって「作業」が主体となる。

一方でPMIの業務はコンサルティングであり、「思考」が主体となる。

そのため、PMIが重視されるようになったところで、これまでM&Aの業務だけをやっていたアドバイザーや各種士業が、PMIを実施することは難しいのである。

コンサルタントでもPMIは難しい(事業再生と一般のコンサルティングの違い)

なお、一般のコンサルタントであっても、PMIを実施するのは難しいのが現状である。

というのは、コンサルタントの多くは「専門コンサルタント」であり、業種や職種などに特化したものが多い。

そして専門コンサルタントのコンサルティング手法は「ノウハウの提供」であり、相手企業の状況に関わらず、個々の持つノウハウ(知識)を提供すればいいのである。

一方で、PMIで求められるコンサルティングというのは、譲渡企業の経営改善を行い、譲渡会社と譲受会社のシナジーを発揮させなければならない。

具体的には、譲渡企業の経営改善には、譲渡企業の「問題点」と「原因」を把握し、「改善案」を構築して提案する必要がある。

そしてシナジーを発揮するには、譲渡企業だけでなく譲受企業の「強み」を把握し、「シナジーの施策」を構築して提案する必要がある。

つまり、単に知識をそのまま提供するのではなく、企業の状況に合わせてカスタマイズしなければならないため、コンサルティングの難易度は高まるのである。

実はこの手法は、対象企業に合わせて経営改善と売上アップ(企業価値向上)の戦略と戦術を構築するという事業再生コンサルティングの手法であり、つまりPMIは事業再生コンサルティングそのものである。

しかし、事業再生コンサルティングのノウハウを持ったコンサルタントは非常に少ないため、なかなか中小企業のPMIが浸透しないのである。

事業再生コンサルティングの仕事内容

事業再生コンサルティングの仕事をさらに詳細に説明する。

私は事業再生コンサルタントとして、さまざまな再生企業(業績低迷して資金繰り難に陥り、金融機関向けに約定返済が困難な企業)の再生に携わってきたが、事業再生コンサルティングの仕事は端的に言うと、再生企業の業績を改善することである。

主な業務内容は大きく3つ。

1つめは「ビジネスデューデリジェンス」で、事業再生の場合、再生企業の調査・分析を行って窮地に陥った要因を突き止め、再建のための施策の提案を行って、これらの内容を「事業調査報告書」にまとめることである。

2つめは「経営改善計画書」の作成です。事業調査報告書で提案した内容をアクションプランに落とし込み、このアクションプランを踏まえて、向う3~5年間の将来のPLを作成する。

そして3つめは「実行支援」である。経営改善やしくみの構築、日々発生する課題の解決、収益向上の支援などを行う。

このように、PMIは、事業再生コンサルティングの業務と類似しているため、PMIを実施するには、事業再生コンサルティングで必要なスキルを有する必要がある。

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ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)の役割は、現状把握と問題点・強みの抽出

スモールM&Aでは、コストの関係で各種デューデリジェンスを実施しないケースが多いため、買収後のPMIで実施する必要がある。

特に、譲渡企業と譲受企業の統合、シナジー効果の発揮を目指すには、しっかりとビジネスデューデリジェンスを実施することが重要である。

ビジネスデューデリジェンスの役割は、事業全体の詳細の現状把握、問題点の抽出と原因究明、真の強み究明を行うことで、それらを踏まえた具体的な改善・成長戦略を策定し、戦術につなげていくことである。

中小企業の場合、経営や組織、営業や製造など、各機能で多くの問題が存在しており、それら問題点の原因は1つではない。

そのため、個々の問題点に注目し、それらの原因を究明することが重要になる。

例えば「営業成績の低下」という問題点がある場合、営業の手法が誤っていたり、管理体制に問題があったり、あるいは経営に問題があったりと、原因は様々である場合が多い。

そのため、問題点の原因を1つ1つ丁寧に掘り下げていき、真の原因を究明することが重要になる。

問題点だけ抽出して原因を究明しなければ改善はできない。

問題点の「真の原因」を究明して初めて、そこにメスを入れて改善策を構築することができるのである。

また、ビジネスデューデリジェンスでしっかりと強みを抽出し、その強みを活かした施策を構築することで、初めて成長施策を打ち出すことができる。

こうして、問題点の改善策や、強みを活かした成長施策を明確にすることで、PMIで早期に経営改善、経営統合を実現することができるのである。

シナジー効果の鍵は、問題を解決し、強みを活用できるよう統合すること

また、ビジネスデューデリジェンスでは、売り手企業に関する問題点の他、強みの抽出が必要になる。

そしてその強みを把握することが、売り手企業の買収後の成長戦略、シナジー効果発揮の重要な要素になる。

シナジー効果を上げる方法は、譲渡企業と譲受企業の、それぞれの問題点と強みを把握した上で融合することである。

具体的には、譲渡企業の問題点を譲受企業が補って改善し、譲渡企業の強みを譲受企業にも活用する、そしてその逆も行って統合するのである。

こうして互いの問題点を改善し、お互いの強みをそれぞれが活用することで、シナジー効果が得られる訳である。

そのため、単にマニュアル通りにPMIを行ってもシナジー効果は期待できない。

しかし、譲渡企業の社長や社員は、問題点と同様に、自社の強みを理解していない。

そのため、買収しても譲渡企業の事業の潜在的な問題は解決せず、潜在的な強みを活かすこともできないのである。

そのため、事務的にPMIを行っても、シナジー効果を発揮することが難しいのである。

形だけで会社を統合しても決してうまくはいかない。

ビジネスデューデリジェンスで経営や事業の中身をしっかりと把握し、その上で確実に経営改善、経営統合する、更にシナジー効果を発揮して企業価値を高めていく。

このプロセスこそが、スモールPMIに不可欠なのである。

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