事業概要
工具や部品等の仕入販売業。一部の部品は顧客の要望に合わせて当社内および外注先で加工して（部品加工）販売している。主な顧客は、工場やオフィスビルの設備関係の工事やメンテナンスを行っている会社。仕入販売の工具はプロ仕様のため、一般消費者向けは実施していない。また部品加工は、多くの得意先共通の加工だけでなく、個々の顧客の個別の要求の加工も対応している。さらに個別要求の加工を１個から短納期で実施することで、顧客の満足度を高めている。そしてこの短納期に対応できる数社の外注先を確保している。
企業規模は、売上高が6,000万円程度で、社員数は３名（うちパート１名）。社長と正社員が営業を担当し、パートが事務全般を担当。パートが経理も兼任しているが、経理関係の資料を担当税理士に提示する時期が遅く、試算表は年に数回発行するのみ。そのためタイムリーに業績が把握できていない。さらに、社長自身もＰＬやＢＳを十分に把握しておらず、危機意識が不十分な状態である。
社長の経営理念は「ありがとうと言われる納品」である。社長が顧客の要望に全力で対応することで、顧客の信頼を勝ち取っていき、着実に売上高を伸ばしている。そしてこの経営理念は社員に浸透している。営業社員も既存顧客の対応と新規開拓に日々勤しんでおり、パートの事務員も電話での商品説明や見積作成などを積極的に対応している。
財務状況
ここ数年赤字が続いたが、売上は増加傾向で、直近でようやく営業利益がプラスになった。利益がプラスになった理由は、売上アップによるものだけでなく、人件費が削減できたこと。社員が１名退社してその人件費分のキャッシュが利益に還元している。そのため、黒字化は実現したものの、低収益率が課題と言える。
なお、既存の得意先は20社程度であり、顧客別売上高の推移を見ると、上記顧客の売上は年々増加している。
問題点
問題点は大きく３点。
１つめは、業績管理が不十分なこと。試算表が年数回しか発行されないため、タイムリーに業績を把握できていない。また、社長が数字を苦手としており、試算表や決算書の振り返りを実施していない。
２つめは、営業ツールで自社の強みが表現できていないこと。日常の営業活動で使用する営業ツールはなく、新規開拓も営業トークのみで対応しているため、新規訪問が受注につながるケースは少なく、効率が悪い。
そして３つめは、見積金額の算出方法であるが、仕入販売品と加工品、双方とも同等の掛け率である「原価×1.4」で算出している。具体的には、仕入販売品は仕入価格に1.4を掛け、加工品は仕入価格と外注費の合計に1.4を掛けた値付けにしている。仕入販売は、単に仕入れて販売するだけであり、付加価値は低い。一方で加工品は、顧客の個々の要望に応じて加工しているため、高付加価値の商品と言える。そのため、より高い利益率で販売できるものを、低い掛け率で値付けしているのである。
強み
当社の強みも大きく３点で整理する。
１つめは、顧客の要望に部品を加工（カスタマイズ）すること、それを１個から実施する体制が構築されていることである。工場やオフィスビルで使用する部品類は、標準品では対応できないケースもあり、さらに加工する部品の数は非常に少ないため、１個から加工するというニーズは高い。
２つめは、納品や加工を短納期で実現する体制である。加工を迅速に実施できる外注先を数社確保しており、カスタマイズの要望も迅速に対応することが可能となっている。
そしてもう１つは、顧客の要望に迅速に対応する営業力である。非効率ではあるが、顧客の要望にスピーディに対応することで顧客の信頼を得て、リピート化および顧客の紹介を得て確実に売上を伸ばしている。そして社長が掲げる「ありがとうと言われる納品」は、日々の社内におけるコミュニケーションによって他の社員にも浸透している。
改善策
経営改善施策を以下３点に整理する。
まずは数値管理の徹底である。具体的には、会計処理を迅速に行い、タイムリーに試算表を振り返ることができる体制を構築する。常に経営者が収益状況を把握することで、業績に合わせた施策を打ち出すことが可能となる。
続いて営業ツールの作成である。当社の新規開拓は紹介がメインであるが、紹介を受けても、紹介された顧客に当社の強みを伝えることができず、受注につながるケースが少ない。そのため、「１個から要望に合わせた部品を加工」「短納期での加工」を明記したツールを作成し、効率的な新規開拓を実現する。
そして最後に、加工品の利益率改善である。高付加価値の製品である加工品は、より高い利益率で販売する。これにより、短期間で利益増加が見込め、安定した収益を確保することが期待できる。
以上の３点の施策を実施することで、業務の効率性は高まり、業績も一気に改善することが見込める。
