事業概要
洗浄剤の製造請負。当社が洗浄剤を製造するのではなく、当社は洗浄剤を容器にパックする作業(パッケージング)を請け負う。当社がパッケージングを請け負う先はC社のみ。C社は様々な洗浄剤を大量に販売しており、それらを決められた容器に決められた容量を1つ1つ手作業で充填し、各容器にラベルを貼って梱包する作業を行う。材料となる洗浄剤の原料や容器はすべてC社から支給され、当社は、送られてくる洗浄剤を混ぜ合わせて洗浄剤を作成し、容器に充填するといった作業のみ。つまり、原価はほとんど人件費という、典型的な労働集約型事業である。さらに、仕入先・販売先はC社のみであるため、C社の業績によって当社の業績が決まるという非常にリスクの高い経営環境である。
案件によって洗浄剤や容器、ラベルの種類が異なっており、充填する量も、少量のものから、何百・何千という大量まで様々である。また納期も、ある程度時間的に余裕のあるものから短納期のものまである。そのため、スケジューリングと人材のシフトが重要となる。さらに、1つでも漏れやラベルの歪み、規定の容量が充填されていないなどがあればクレームになるため、ミスのないように案件単位で作業手順の構築とチェック体制も必要となる。
当社は社長の他、案件対応窓口やスケジューリング等を行う事務員2名(正社員)、そして作業員はすべてパートである。
財務状況
売上高は3千万円~5千万円と波があり、営業利益はプラスの期もあれば、マイナスの期も出ている状態で黒字の時も売上高営業利益率は数%程度であり、決して収益力は良くない。さらに借入が多いため、約定返済が難しい状態であった。
問題点
当社の問題は、案件単位での収益状況を管理できていないことである。案件でどの程度の作業が発生し、人件費がどの程度かかるのかが把握できていない。そのため、すべてC社の提示する料金で作業を行っており、多くの案件で、赤字で受注している可能性が高かった。ただし、前述のとおり当社の売上原価はほとんどが人件費である(一部倉庫代)。作業は煩雑であり、案件によって異なっている。そのため、実際の原価を算出するには、各作業にかかる人件費を緻密に確認し、案件の依頼時に即見積金額が算出できるような「しくみ」を構築する必要がある。
さらに、どの作業を何人で作業すればどの程度時間がかかるかが曖昧なため、作業のスケジューリングと人の配置が正確にできていないことである。その日に出勤できるパートを適当に配置して作業を行っているため、閑散期では多くのパートの手待ちが発生して無駄な人件費がかかっていた。
改善策
改善策は、1つめは案件の依頼時に即見積金額が算出できるしくみ作りである。具体的には、「見積作成フォーマット」を作成すればいい。見積を正確に算出することができれば、価格交渉が可能となり、赤字で受注することは回避できる。見積作成フォーマットは、各案件で異なるパラメータ(案件によって異なる数値)を入力すれば、自動的に原価、つまり人件費が即座に算出されるものでなければならないが、エクセルで作成は可能である。
見積作成フォーマットは、まずは作業工程を詳細に分解する。具体的な工程(作業)は、①容器集め、②原料作成、③ラベル貼付(片面・両面・場所指定ありなし)、④充填、⑤計量、⑥キャップ締め、⑦漏れテスト、⑧袋詰め、⑨空箱への詰め込み、⑩セットアップ(ロット押印、ラベル貼付、箱作り、箱の組立、梱包、倉庫輸送など)である。
この中でパラメータとして入力するものは、原料の容量、ラベル数、充填作業である。また、数量(セット数)もパラメータとなる。これらすべての工程について、必要な項目を割り出し、それぞれ作業人数と時給を算出できるようにする。
そしてもう1つは、シフト管理のしくみ作りである。シフト管理表はガントチャートで作成する。1日の各作業員の実施すべきシフトを整理し、予定と実績を書き込めるようにする。予定と実績に乖離が出る場合は改善内容を書き込めるようにし、日報としても活用する。
実行支援の結果
上記の見積作成フォーマットによって、セット数の少ない案件はほぼすべて赤字であることが判明した。これは、「①容器集め」で、倉庫から容器を作業場に持ってくるための時間が多くかかることが原因である。この作業は、セット数が多くても少なくてもすべての案件で固定的にかかる時間であるため、容量が少ない場合は多くの、実際の充填作業以外の固定時間がかかっていたのである。
そこで、少ないセット数は受注しないことに決定。さらに、案件単位で見積金額を瞬時に出せるようになったため、当社が見積料金を提示できるようになり、赤字の案件がほぼなくなり、収益は大きく改善した。