電子部品メーカー/経営改善(実行支援)

事業概要
 電子部品メーカーで、事業所は本社と工場。双方で製造している。
 会社規模は、社員は20名程度(うちパートは10人程度)で、売上高は約1億数千万円。
 当社は別会社の1事業部から分離した会社であり、その際に、前会社の社員だった現社長(女性)が、ある事情で分離した当社を承継する形となった。ただし社長は前会社では事務員であり、会社の事業の詳細や商品知識が不十分で、試算表や決算書の知識も十分ではない。さらに、諸事情により仕方なく社長を引き受けたという経緯があるため、モチベーションも高いとは言えない。
 社員はすべて、前会社から移ってきた人材である。経営幹部は社長1人で、社員で経営に関与する者はおらず、すべて現場の技術者などプレイヤーである。そして社長は、前会社で事務員であったため、社長であっても他の社員に積極的に指示することができず、社員を統制することが難しい。
 製造する部品は、主に手作業で組み立てるものが主流であり、精密な切削加工などはなく小さい部品の組立が中心であるため、製造設備も少ない。
 当社の顧客も前会社から引き継いでいるため、顧客との取引は長く、関係性もある。カスタマイズ品も多く、売上高はほぼ既存顧客との取引が占めている。ただし製品の価格は昔のまま改善していない。

財務状況
 分離してから5年経過するが、当初から経常利益は黒字を維持しており、直近でも売上高経常利益率は4、5%程度を維持し、数百万円のCFを出している。売上高借入金比率は20%程度で借入も多くない。
 しかし、現預金はそれほど多くはなく、資金繰りが厳しくなる月がある。これは、売掛金のサイトが長く、買掛金サイトが短いため、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル:仕入から販売に伴う現金回収までの日数)が4~5ヶ月かかるためである。そのため「(現預金)-(仕入債務+未払関係)」がマイナスになる年度もある。つまり、売掛金が入らなければ、仕入資金が不足する月が発生するのである。
 また、毎月の棚卸を実施しないため、大量に仕入をする月の試算表は原価率が大幅に上がり、毎月の収益を正確に把握することができていない。
 なお、近年利益率が減少しているが、これは原価率が増加しているのが原因。原価は、材料費・労務費・外注費・経費で構成されているが、その中で売上高に対する材料費比率が増加している。つまり、材料の仕入高が上がっているのに、販売価格は変更していないため、材料費比率が上がって収益を圧迫しているのである。

問題点
 当社の問題は様々あるが、大きくは、1つは資金繰り状況を見ずに大量仕入を行うことで資金繰り難に陥る時期が出ること、2つめは、長年既存顧客向けの価格を改定していないこと、3つめは、社長が収益状況を把握できず、従業員の統制も取れないこと、そして4つめは、業務が属人的で管理者が不在で、各人が独自で業務を管理し、技術の承継もされていないことである。

強み
 当社の強みとしては、個々の顧客向けのカスタマイズ品を製造しており競合が少ないこと、長期間安定して取引している多くの固定客を持っていること、そして技術者が一定のスキルを保有していることである。

改善策
 改善策は、まずは価格を見直すことである。そのためには、材料費が上がっているため、商品別の原価管理を見直すことで、一気に利益を向上させる。顧客と関係性があり、カスタマイズ品も多いため、値上げは可能と判断できる。さらに、従来の商品別の原価には材料費しか計上されていない。つまり、製造に時間がかかる製品も、時間のかからない製品も、労務費が入っていないので原価が正確に計上されずに値付けをしているのである。そのため、作業負荷の高い製品は、低利益率や赤字のものがある可能性がある。そのため、材料費の他、労務費を含めて原価を再計算する必要がある。
 その他、日々の試算表で予実管理を行い、収益状況や現預金の状況をタイムリーに把握することである。これにより、資金繰りを踏まえた仕入が実施できるようになる。
 さらに、社長以外に会社を取りまとめる人材を経営幹部に抜擢し、組織の管理・統制、そして承継を行うしくみを構築する。今後も長く維持するためには、各人のノウハウを承継する体制を構築しなければ、各技術者が退職してしまうと、その技術者のノウハウを会社として失ってしまう恐れを回避しなければならない。

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