非鉄金属リサイクル業界/経営改善(事業DD、実行支援)

事業概要

 当社は、銅のリサイクル業者である。

 当事業の仕入は、自宅やビルといった建物等の取り壊し現場などから出た電線を、産廃業者や電気屋が引取り、そこからさらに金属問屋が鉄などの金属と、銅などの非鉄金属に分けられる。当社はその金属問屋から、分別された銅電線を購入する。そしてそこから当社にて、被膜を剥がし、動線を米粒状のナゲットに加工した上で、材料商社に販売している。

 当業界のビジネスモデルの特徴は以下である。

【ビジネスモデル】

①    仕入先と販売先の双方のルートの確保が必要で、双方で価格競争が発生する

②    商品の差別化が難しくブランディングが困難

 以上により、中小企業の基本戦略である「差別化集中戦略」が困難であると言える。本業界の仕入価格と販売価格は、市場価格で取引されるため、元々高い利益率は期待できない。そのため、この業界で勝ち抜くためには、価格と営業力の勝負になる。つまり、徹底した低コスト体制を確立し、かつ個別の営業力で仕入先と販売先を確保することである。

 従来までの国内での非鉄金属リサイクル業界は、小規模な国内企業で成り立っていたため、各々が固定の仕入先・販売再起と取引を行い、小規模で安定的に経営してきた。

 しかし近年、中国資本が参入してきた。背景の外部環境として、世界全体の銅消費量は一貫して右肩上がりに増加しており、特に2000年以降は中国の増加が著しい。そのため、中国での肥よくで高値販売可能な販路を持った中国の銅リサイクル業者が日本国内に参入し、強力な営業力で、銅配線を高値で仕入先を確保するようになった。

 一方で、販売先については中国企業とは競争にならない。そのため、販路を確保するために、日々の営業で販売先と信頼関係を構築することが必要となる。

問題点

 当社の問題点は、他の同業者同様、日々の営業を行っていないため、仕入先と販売先が限定的であることである。特に販売先は、特定顧客の依存度が高く、その企業の需要が低くなって買取が減ると、当社の業績は一気に悪化してしまう。

 また、銅の建値が決まっていて値付けの幅が小さいため、銅配線の仕入価格の迅速な設定が重要になる。仕入材料の銅配線から、どの程度の銅が見込まれるかを迅速に見極めるスキルと、それらを踏まえた迅速な見積価格の提示が必要といえる。

強み

 当社の強みは、1つはシンプルでコストのかからない組織体制である。管理部門もなく、経営者と現場のシンプルな組織であるため、余計な管理コスト、人件費がかかっておらず、コストを絞ることができる。また、従業員がまじめでよく働き、コミュニケーションが良好であるため、内部の業務内容に大きな問題はない。そのため、経営者は営業力の強化に注力できる。

改善策

 前述のとおり、業界で勝ち抜くためには、価格と営業力の勝負になる。仕入先については、価格で優位になる中国企業には勝ち目がない。そのため、ターゲットを絞るという「集中戦略」ではなく、商圏範囲内のすべての仕入先に対して網羅的に営業活動を行い、より多くの仕入を確保することが望ましい。また、一旦中国資本の企業に仕入先を取られた後から新規で営業をかけても、その仕入先に入り込むことは難しいため、先に関係性を築いていくことが必要である。そのため、営業活動を強化することは早急に取り組むべき施策である。

 一方、販売先については、国内市場で1つ1つ丁寧に見つけて販路を拡大させていくことが必要である。国内販売においては、中国資本の競合は脅威にならない。なぜなら、もともと中国国内での販売を目的としており、仕入価格が高いため、日本国内での販売では販売価格で不利になる可能性が高いためである。そして体質の古い国内企業は日々の営業活動を実施していないため、国内の販売先への営業活動は十分に効果が期待できる。

 以上のように、仕入先・販売先の双方について、1社ごと丁寧に営業活動を行い、個別に関係性を構築していくことが重要である。

 その他、仕入管理を強化し、迅速・正確な見積作成のしくみを構築することである。銅リサイクル事業は利幅が少なく、低収益モデルであるため、細かい管理によって収益を確保していく必要がある。そのため、仕入において自社でコントロールできるもの、できないものを明確に区別し管理する必要がある。現状の仕入表では、仕入単位ごとの利益が把握できておらず、仕入価格の調整、交渉は勘に頼った状況にある。今後、多くの中国資本の参入による仕入価格の高騰に備え、案件単位で利益高を把握し、交渉できる体制を整える必要がある。そのため、細項目ごとに分割した仕入管理表を作成し、自社のコントロール可能な指標を明確に区別する。そして迅速かつ正確な見積作成ができるしくみを構築し、今後の仕入活動を効果的に進めていくことが重要である。

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