試作品の模型製作/事業再生(事業DD)

事業概要

 当社は試作品の模型製作会社である。模型は2種類あり、新製品のイメージデザインを具現化した模型制作の「デザインモデル」、そして量産品の試作品模型の製作の「ワーキングモデル」である。主な顧客は大手自動車メーカーや電機メーカーである。

 デザインモデルは、発注元がデザイン部門であり、まだ世の中にない新たな製品が対象であるため、細かい仕様については決まっていない。そのため送られてくるデータは、メーカーの設計部で詳細な仕様を吟味したものではなく、デザイン部門で、その製品の完成品の「デザインイメージ」を作成したものが送られてくる。

 一方でワーキングモデルは、量産品のための試作品で、発注元である設計部門が詳細に仕様を固めた上で、模型製作に必要な「仕様データ」が当社に送られてくる。

 当社はデザインモデルに注力するという経営戦略であり、なるべく外注に出さずすべて自社で行う内製化にこだわっていた。理由は、デザインモデルは高付加価値で差別化が可能で当社の強みを活かすことができ、高い利益率を獲得できるためであり、一方でワーキングモデルは、付加価値が低く、差別化が困難なため価格競争が激しく、利益率が低いためである。そのため売上の8割以上をデザインモデルが占めている。

財務状況

 売上高は、10年前には10億円程度あったが、当社のデザインモデルに特化するという経営戦略を打ち出して以降急激に売上は下落し、近年は3~4億円程度で低迷しているが、営業利益率は常に5%程度を確保している。ただし、売上の急激な減少により、直近では借入金が売上の1.5倍以上になり、利息の支払いと返済の負担が大きく、経常利益、および当期純利益は低迷していた。

問題点

 当社の最大の問題は、「デザインモデルに特化」という経営戦略、「なるべく外注はしない(内製化)」という事業方針を打ち出していることである。海外の外注ルートも確立できており、自社工場の負担なく、短納期で安価に、一定の利益率を確保できる体制が構築できている。しかもワーキングモデルの需要は依然として大きい。それにも関わらず、経営者の戦略および事業方針で、ワーキングモデルを積極的に受注していない。

 また、営業活動も、既存顧客からの案件の連絡を待つという「待ち営業」であり、積極的に営業活動を行っていない。デザインモデルを制作するメーカーはほぼワーキングモデルも制作しているため、デザイン部門から設計部門の紹介営業による横展開は自可能である。しかし、当社の戦略と方針によって、それらを実施できていない。

強み

 当社の強みは、「高品質」と「短納期」を両立したスピード開発である。新製品の模型は、完成時の「見た目」が重要視される。特に表面の滑らかさや色合いに関するメーカーの要求は極めて高く、この要求の高いレベルを迅速に実現するためには、工程の中で、手作業で行う作業を、高品質かつ迅速に行うことができる高いスキルが必要となる。

 当社が高品質と短納期のスピードを実現できる理由は、以下の3点に強みを持つからである。

①    CADで新製品のデザインイメージを、CADを使って設計図を制作する際に、完成品デザインの部品展開を迅速に行えること

②    仕上げの磨きと削りの手作業で、職人レベルの卓越したスキルを持った社員が、高品質かつ迅速に仕上げることができること

③    さまざまな色を微妙に調合しながら色を作り上げる作業である「調色」を担当する社員が、迅速かつメーカーのイメージ通りに作り上げるスキルを持っていること

 このように、当社は「匠の技」を持つプロ集団である。それが、前述の「デザインモデルに特化」という経営戦略、「なるべく外注はしない(内製化)」という事業方針につながっている。

改善策

 当社の、「高付加価値で高利益率であるデザインモデルに特化する」という経営戦略は、いわゆる差別化集中戦略であり、中小企業のセオリー通りの戦略である。そのため、一般的には正しい戦略であると言える。

 しかし、当社には膨大な借入がある。そのため、一定の売上高のボリュームを確保しなければならない。そのため「利益率」だけを追求する戦略は、当社はとっては的確な戦略ではない。しかも、安価な低利益率であるワーキングモデルは、完全外注で製造できるしくみを確立済みであり、自社の製造部門の負担はかからない。そのため、1件当りの利益率は低くても、数をこなしてボリュームを上げて「利益額」を稼ぎ出すことも重要である。つまり、「高付加価値モデル」と「低付加価値モデル」の双方を狙うことがポイントである。

 具体的な改善策は、まずは経営戦略、事業方針を見直して、積極的にワーキングモデルを取り組むように変更することである。そしてワーキングモデルの獲得の積極的な営業活動を実施すること、具体的には既存顧客の横展開を図ってワーキングモデルの受注を獲得することである。

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