旅館/事業再生(事業DD)

事業概要

 当旅館は地方の某温泉街にある老舗旅館。

 従業員20名程度、客室数20室程度というやや小ぶりではあるが、江戸時代に宿屋として開業した歴史のある旅館である。

 部屋は非常に個性的で、各々に独自のテーマが決められている。

 そしてその世界観は独特で、各部屋はまったく異なる雰囲気となっている。

 これは、各部屋全体の設計や木材、畳、家具、飾りなど、細部にまでこだわりを持って作っており、各部屋のテーマに沿って、大工の技と素材が融合した日本文化を大いに楽しめる造りとなっている。

 また、部屋にある掛け軸や陶器、家具や湯呑にまで、テーマや世界観に合わせて選択されたものである。

 大浴場が2か所にあり、源泉かけ流しの檜風呂であるが、露天風呂はない。

 某ネットエージェントによる顧客の評価も高く、その温泉街の旅館の中でもベスト3に入る高評価を得ている。

 料金は1泊2食付きで1人2~3万円で、客室単価(ADR)は3万7000円と、やや高級な部類に入る。   

収益・財務状況

 約20年前に新館を増設し、借入が一気に増えた。

 しかし売上を大きく伸ばすことができず、それ以降は年々売上が減少していった。

 そして直近では、売上高は1.5億円程度にまで落ち込んでいるが、営業収益は良く、売上高営業利益率は10%程度出している。

 ただし依然として借入金が多く残っており、売上高借入金比率は300%を大きく超えて借入過多状況である。

 さらに、10年前から4期連続で営業利益が大きくマイナスとなった時期があり、債務超過に陥った。現在は収益力が回復しているものの、債務超過は解消されていない。  

問題点、課題

 1つめは、経営者の意識が保守的で、「課題解決」「顧客のニーズを捉える」「自社の強みを活かす」といった戦略的思考が欠如していることである。

 そのため、従来の業務をそのまま継続する意識しかなく、当社の強みを活かす施策の構築や、改善への取組みが進んでいない。

 2つめは、数値管理が不十分なことである。

 収益管理が不十分で、試算表を振り返ることもないため、業績を正確に把握できておらず、危機意識が欠如している。

 3つめは、マーケティングの取組みが欠如していることである。

 当館は客室稼働率が40%を切っており、定員稼働率は20%程度である。

 しかし、これら指標を伸ばすための施策を打ち出すことはしていない。

 例えば、幾つかのネットエージェントに登録しているが、最も集客力のある「じゃらん」と「楽天」には登録していない。   

強み

 1つめは、個性的で、独自の世界観を持つ、こだわり抜いた部屋である。

 各々の部屋が個性的で、個別の世界観を持っているため、すべての部屋への宿泊を目指すリピーターも存在するくらいである。

 個室だけでなく内装全体もこだわりのある独特の高級和風の雰囲気で、随所に高価な焼き物などでアクセントを付けている。

 2つめは、料理の品質は高いことである。口コミの評価も高い。

 すべて手作りで、「日本料理はだしが命」という言葉を大切にしているらしく、だしへの拘りが強い本格料理を手掛けている。

 一品一品が繊細で丁寧に料理されており、ボリューム感もある。

 3つめは、風呂は源泉かけ流しで、泉質も良いことである。

 当温泉街の中で源泉かけ流しの旅館が少ないためウリの1つとなっている。   

改善策

 当社は上記のとおり、多くの強みがあり、顧客をリピートさせ、さらにはファンにするだけの価値を持っている。

 しかし、それらの価値を発信し、浸透させる取組みを実施していない。

 そのため、「じゃらん」や「楽天」といったネットエージェントのメジャー処に登録して、当社の価値をアピールすれば、顧客は増え、さらにリピーターを増やすことができると想定される。

 そのためには、経営者が意識を変える必要がある。

 具体的には、来店客だけを見るのではなく、より広い顧客を集めるためのマーケティング・ブランディングの重要性を認識する必要がある。

 さらには、収益管理を徹底し、危機意識を持って経営に取り組むことも大切である。

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