スモールPMIの事業統合「販管費シナジー」の概要
スモールPMIの事業統合について、「販管費シナジー」の概要は以下のとおりである。これらについて詳細を明記する。
【スモールPMIの事業統合「販管費シナジー」の概要】
- 代表的なシナジー効果
- 販管費シナジー① 広告宣伝・販促活動の見直し
- 販管費シナジー② 間接業務の見直し
- 販管費シナジー③ 共同配送
- 販管費シナジー④ 管理機能の集約
- 販管費シナジー⑤ 販売拠点の統廃合
代表的なシナジー効果
●M&Aの目的を踏まえ、持続的な成長のためにシナジーを発揮させる
譲渡企業の課題を解決した後は、更なる収益力の向上や持続的な成長につなげるため、譲渡企業と譲受企業の経営資源を活用してシナジー効果(相乗効果)を発揮させ自社の強みを強化することを検討する。
●シナジー効果の類型をおさえ、優先順位をつけて実行する
代表的なシナジー効果は、主に売上拡大につながる「売上シナジー」と、コスト削減につながる「コストシナジー」に大別され、「コストシナジー」は「売上原価シナジー」と「販管費シナジー」に分けらる。
この場合の「売上シナジー」とは、譲受側と譲渡側がお互いの製品・サービスや販売チャネルなどの経営資源を相互に活用して既存顧客にアプローチしたり、お互いの製品・サービスを組み合わせることでより付加価値の高い新たなサービスを開発するなどして、売上拡大を目指す取組みになる。
そして「売上原価シナジー」とは、主に譲受側が譲渡側の生産現場の改善や調達先の見直しなどを支援することで、譲渡側の売上原価の削減を実現させるための取り組みで、「販管費シナジー」は譲渡側の間接業務の改善を支援することで販管費の削減を実現させ、収益性の改善を図るための取り組みになる。
シナジー効果実現の可能性は多岐に渡るが、当初のM&Aの目的を堅持しつつ、ビジョンの明確化とゴール達成のための戦略・戦術と連動させ、具体的なアクションプランに落とし込む際には、誰が、いつまでに、何を実現するのかについて関係者で情報を共有して進捗を管理することで実効性を高めることが大切になる。
販管費シナジー① 広告宣伝・販促活動の見直し
●広告宣伝費は営業施策によって増減する
「販管費」とは「販売費および一般管理費」の略称で、販売費と一般管理費に分かれる。
販売費は、「広告宣伝費」や「販売促進費」、「販売手数料」など、販売活動に関連する費用のため、営業施策の内容により大きく変動する。
一般管理費は、「給与手当」や「地代家賃」、「リース料」など、管理活動にかかる経費のため、従業員や拠点の増減が無い限り、月ごとの変動が少ない特徴がある。
●販売費は目的を明確化して費用対効果を検証する
販売費の広告宣伝費や販売促進費については、支出する目的を明確化して、費用対効果の観点から実施の可否を個別に判断することがポイントになる。
特に売上高に対する広告宣伝費の割合が同業他社に比べて高い場合や予算や発注先が固定化されて、売上高の増減と広告宣伝費の関係が検証されていない場合は注意が必要である。
広告宣伝費は、実施の可否判断が現場管理者に権限委譲されているケースも多いため、経営者の目が届きにくく、放っておくと増加する傾向がある。
そのため、発注権限の明確化、発注書の導入、相見積りの必須化など、継続的に規律をかけていくことを仕組み化する必要がある。
販管費シナジー② 間接業務の見直し
●属人化した業務を可視化させ改善対象とする業務を特定する
間接業務の質的改善(ミスの低減や業務品質の向上)や量的改善(業務効率化、業務時間短縮)を実現するための活動である。
中小企業では、間接業務が可視化されておらず、業務が属人化していることが多く見られる。
そのため業務の見直しを行うためには、各担当者へのヒアリングを通じて間接業務の棚卸を行い、業務フローを見える化する。そして業務ごとに担当、業務発生時期・頻度、業務にかけている時間などの詳細についても把握する。
その上で改善対象とする業務を特定し、改善案の作成、実施・検証のサイクルを回す活動を行う。
●業務改善の定番フレームワーク「ECRS(イクルス)」で整理する
業務改善の検討は、それぞれの業務ごとに以下の4つの観点(排除→統合→入れ替え→簡素化)を順番に検証していくことが効果的である。
そして、間接業務のうち、特に標準化が可能な定型業務については、ITシステムを導入し、システムの運用に合わせて自社の業務を標準化することが業務効率の改善につながる。
販管費シナジー③ 共同配送
●物流事業者の共通化、荷物の集約化でコストを削減する
譲受企業と譲渡企業で同一又は近接エリアへの既存顧客に対して配送を行っている場合に、物流事業者を共通化して荷物を集約することによって、荷物一つ当りの物流費の低減を実現するための活動である。
一般に物流費は、荷物量に応じて変動する変動費の性格を持つ費用であり、荷物量が増加するほど利益への改善効果が大きくなることから、特に売上高に対する物流費の割合が高い製造業や小売業等では、他の業種と比較して大きな改善効果が期待できる。
●配送費用以外の物流費も含め検討する
また、物流費には配送費用だけでなく、保管費、荷役費等が含まれるケースもあるため、双方が物流事業と結んでいる契約を精査し、物流費がトータルで低減できないかの検討が必要である。
そして、物流業者との運賃等の取り決めや交渉の際は、自社の配送先情報や時間制約等の情報が必要になるため、これらの情報を整理しておくと良い。
販管費シナジー④ 管理機能の集約
●管理機能を集約し生産性を向上させる
管理機能を集約することにより、譲受企業と譲渡企業の全体で業務効率を改善し、管理機能の生産性向上を実現するための活動である。
例えば、譲受側の業務水準が高く、IT化が充実している場合は、譲受側のシステムに統一して譲受側が譲渡側の業務を吸収することで、大幅なコスト削減と生産性向上、および業務品質の向上を実現することができる。
また、譲渡側において不足している経理・会計や人事労務関係の管理機能を譲受側が補完・代替することにより、譲渡側の事業運営を支援するケースもよく見られる。
●集約する側のリソースも考慮して最適化を目指す
管理機能の集約を検討する際は、以下の表のように、集約される側(多くは譲渡企業)の管理機能に関する基本情報を整理すると同時に、集約する側(多くは譲受企業)への影響も考慮して決めていく必要がある。
その際、従業員の勤務地変更を伴う場合は、従業員にとって不利な変更になることも考えられるため、事前の説明と理解の醸成に留意し、合意を得ておくことが望ましい。
そして、間接業務の見直し同様、ITツール活用により標準化が可能な定型業務の自動化や、アウトソースの活用等も併せて検討するとより効果が期待できる。
販管費シナジー⑤ 販売拠点の統廃合
●営業活動における業務効率化と拠点関連費用の削減を実現させる
譲受企業と譲渡企業の統合に伴って同一エリア内における営業体制の重複の非効率を改善することにより、営業活動における業務効率化、拠点関連費用(賃料、光熱費、メンテナンス費等)の削減を実現する活動である。
譲渡企業(又は譲受企業)の販売拠点を廃止し、譲受企業(又は譲渡企業)の販売拠点に集約する場合と、新たに設置した販売拠点に集約する場合がある。
●営業担当者間の情報共有を促進させシナジーを発揮させる
譲受企業と譲渡企業の営業担当者を同一拠点で活動させることで、営業事務など間接人員の業務効率化やコスト削減だけでなく、双方の営業ノウハウの共有、営業に関する意識改革、新たな営業施策立案のための活発な議論の促進等も期待できる。